兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

「お客様」の問題

 区役所で「×番でお待ちのお客様―」と言われるたびに、気になって、言い返したくなること。

 

俺はお客様じゃねえ。

 

このたび会社をやめたので国民年金の支払い変更手続きが必要になり、それで世田谷区内の某出張所に行ったもので、久々にそれを思いだしたのでした。

役所で働く方々は、我々が支払った税金を遣って、我々がこの場所に住むにあたって必要になること(たとえば住民登録の管理とか、選挙にまつわるあれこれとか、住民票や戸籍謄本の発行とか、あるいはゴミの回収のオペレーションとか)を行う、それを仕事としているわけであって、我々に何かを提供して、それに対して我々が支払った代金から、給料をもらっているわけではない。

ゆえに我々は客ではない。役所で働くみなさんは税金から給料をもらっている、と考えると、長野県知事時代の田中康夫的に言うと、我々住民のサーヴァント(公僕)ということになる。公僕、っていうと住民がずいぶん偉そうだけど、我々は税金によって彼ら彼女らを雇っている、とも言えるから、まあ理屈は通る。

そうです。「お客様」では理屈が通らないのです。たとえば住民票発行窓口のスタッフはみんな基本給+歩合給になっていて、1日に自分が発行した住民票の数で歩合給が決まる、というのなら、「お客様」と呼ばれても納得のしようがあるが。

 

そんなに目くじら立てなくても。たとえばほら、家に人が遊びに来た時、その人のことを「お客様」って呼ぶじゃない? 「お客様」って言葉、そういう使い方もあるでしょ?

 

「ただいまー」

「お帰り、ゆかりちゃん」

「あれ、お客様?」

「うん、ママの通ってる総合格闘技ジムのお友達」

「こんにちはゆかりちゃん、おじゃましてます」

 

ね? 不自然じゃないでしょ?

うん。不自然じゃない。「おまえんちの母ちゃんMMA習ってんのか! こええよ!」という驚きはあるが、そしてなぜゆかりちゃんなのか自分でもさっぱりわからないが、言葉の用法としては正しい。

正しいが、これをこのまま役所にスライドさせるのは無理がある。この場合の「お客様」は「その家に招かれる人」という意味での「お客様」なのであって、あたりまえだが、人は招かれて役所に行くのではないからだ。用があるから自ら出向くのだし、役所側も「近くにいらしたらぜひお寄りになってください」などと、我々を招いているわけではない。

 

僕が自分で役所に行くようになったのは、大学に入ってからだから1987年頃、今から28年前、ということになるが、当時、広島でも京都でも「お客様」と呼ばれた記憶はない。

その4年後に東京に引っ越した頃も、少なくとも世田谷区内の役所で「お客様」は使われていなかったし、その後数年間もそうだったと思う。

それがいつの間にか「お客様」になっていた。いつからだったかの記憶はぼんやりしているが、最初に「お客様」と呼ばれた時の「えっ!?」という違和感は覚えている。

2000年代からだろうか。2010年代に入ってからだろうか。世田谷区以外もそうなんだろうか。そして、東京以外はどうなんだろうか。今度地元(広島です)に帰ったら、そのことを確かめるためだけに、町役場(安芸郡府中町のです)に行ってみることも厭わない気持ちになっている私なのであった。

 

世田谷区民になって24年。とりあえず、区内の役所と出張所における「お客様」問題をなんとかするには、先日見事再選を果たしたばかりの保坂展人区長に、この思いを届ければよいのだろうか。