兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

映画『バクマン。』がおもしろすぎる

大根仁監督の、いわゆる大規模商業映画(なんだこの言い方)としては『モテキ』に続く2作目となる映画『バクマン。』。

モテキ』の時は、テレビドラマからの流れとか、そもそもそのテレビドラマ化が最終的には大根仁監督がテレビ東京に持ち込む形になってスタートしたとか、映画版の原作を久保ミツロウがネームの形で描き下ろしたとか、その久保ミツロウと大根監督の関わりとか、ナタリーなど現実のメディアやフェスなんかが出てくるとか、「これぞ大根作品」なキャスティングそのものとか、イベント『モテキナイト』とか……つまり、映画が映画として成立していくまでの過程そのものに物語があって、きっと我々はそれも含めてあの映画に共振したんだと思うが、今回の『バクマン。』はそういうの、ない。

大根監督が東宝から依頼を受けて撮った、おそらく当初のとっかかりはそれ以上でも以下でもないわけで、つまり「観る側の事前からの思い入れ」みたいなアドバンテージがない、まっさらの状態で観られることになる(原作のすごいファンとか、佐藤健もしくは神木隆之介の熱心なファンという人もいるでしょうが)。

どうなのかなあ、そりゃまあ原作はすげえおもしろかったけど、もう何年も前のマンガだしなあ……という気持ちが、僕には正直あったのですが。

ふっとばされました、観て。すごい、これ。

以下、特にすごいと思う7点。

 

・キャスティング。発表になった時は「逆じゃねえの?」という声もあったが、観ると、佐藤健=最高、神木隆之介=秋人、ずっぱまり。小松菜奈の亜豆や山田孝之の服部、染谷将太新妻エイジなど、他のキャストもはまりまくり。たとえば服部、原作とは別人なんだけど、めちゃめちゃ「マンガ雑誌の編集者」のリアリティ出てるし(僕の知っている某マンガ誌編集者にそっくりで笑った。偶然ですが)。

あと、特にいいのは川口たろうの宮藤官九郎と中井さんの皆川猿時。宮藤さん、もう川口たろうにしか見えないし、皆川猿時の中井さん、原作では最低な奴だけど、この映画では愛すべきキャラだし。

 

・オマージュや引用等の小ネタ。『モテキ』ほど前面に出てないし、「わかる人だけでいいです、わからなくても映画を観る上で支障ありません」というレベルだけど、細々とあります、あちこちに。大根監督ほど熱心な漫画マニアではない私でも気づくレベルでそう思うので、もっと詳しい人ならもっといろいろ楽しめると思う。

 

・原作の作画担当・小畑健を使いすぎ! あきらかにこの映画のために描いた絵がばんばん出てくる。ぜいたく極まりない。普通「これ小畑健が描いてくれたら完璧だけど、無理だよねえ……」とあきらめそうなところで、あきらめていない。描かせた方もすごいが、描いた方もすごい。

 

サカナクションの音楽。今、主題歌“新宝島”が大評判だが、劇伴も相当すごい。まあ劇伴よりも主題歌が盛り上がるのはあたりまえだけど、聴きすごすともったいない。今後こういう仕事が殺到するんじゃないかと思う(そうそう引き受けないと思うけど、忙しすぎて)。

 

・特にマンガを描くシーンのCGがそうなんだけど、「こんなのありか!」という画面演出や技法がすごい。が、その演出で驚かせることが目的になっていなくて、その演出方法が必要だった理由が、観ればわかる。なぜ。その時の登場人物たちの心情や感情を表現するため、そのシーンで伝えるべきストーリーを描くためには、それが最適だったから。

 

・で、それらの技法を駆使して伝えている、大きなテーマは何か。「友情、努力、勝利」という週刊少年ジャンプの精神。しかも、かつてはそれにハマった時期もあったけど、大人になるにつれて距離を感じてしまうようになった元ジャンプ少年(僕ですが)が、観るとジャンプ少年だった頃の自分に戻ってしまうような、リアリティと説得力で伝えてくる。ゆえに、劇中後半での服部のセリフが、ほんとに胸に刺さる。

映画公開と同時に発売になった、『バクマン。小畑健イラストワークス』の中で、大根監督はちばてつやと対談しているが、それを読んで、あとこの映画を観て、僕がこれまでの人生でいちばん好きなマンガ家は、ちばてつやの弟、ちばあきおだということを思い出しました。で、思わず『キャプテン』と『プレイボール』を読み返しました。

 

・もうあちこちで驚愕の声が上がっているが、エンドロール。『モテキ』のそれ以上。大根監督が懇意のグラフィックチームにむちゃぶりして作ってもらったそうだが、作った人たちの労力を考えるだけで気が狂いそうです。

 

 

ちなみに映画『バクマン。』、公式サイトの作りこみもすごいです。

こちら。http://bakuman-movie.com/index.html