兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

自分の写真の話

  仕事をした時に「写真を送ってください」と言われることがある。そのたびに、軽く困る。

  書いた原稿を掲載する、もしくはアップする際に、書いた人の写真も付けるので提供してください、ということだ。今「アップする」と書いたが、雑誌とかの紙媒体よりも、ウェブの方が、そう言われることが多い。

  自分の写真を、積極的に出したい方ではないのだと思う。と、意識したことはなかったが、たとえばライターとかラジオのパーソナリティーとかで、アーティストの写真を撮ってツイッターとかにアップする時、自分も一緒に映る人、多いでしょ。自分は決してそうしない、ということに、今、書きながら気がついて、「あ、そうなのか、俺」と自覚しました。

  そもそも写真を撮るのは好きな方だと思うが、撮られるのは苦手だ。旅先でも、景色や他の人は撮るけど、自撮りしたり、誰かに頼んで撮ってもらったりしたこと、ない。なので、スマホに自分の写真、全然入っていない。

 

  かといって「写真出すのNGにしてるんです」とか言うのは、自意識過剰みたいで恥ずかしい。同じ理由で、知り合いに、スマホで撮られてそれをインスタに上げられたりすることにも、一切抵抗しないことにしている。

  自分の見た目なんてとうにあきらめてます、どう写ろうが、それが外にどう出ようが、どうでもようございます。という、淡々としたスタンスでいたいと思っているんだな、俺は。ということにも、今、気がつきました。書いてみると気がつくことっていろいろありますね。

 

  さて。

  じゃあいいじゃねえか。写真くれって言われたら「はい」って出せば。

  という話であって、現にそうしているのだが。どれもひどいのです、その自分の写真が。

  スマホで自撮りするか、そのへんにいる人に撮ってもらうかのどっちか、ということになるのだが、いくらなんでもこれはちょっとひどすぎるだろ、人前に出しちゃいけないやつだろ、と自分でも思うような仕上がりになってしまうのだった。

  前に、Theピーズ日本武道館特設サイトにコメントを出した時も、写真を求められたのだが、アップされた瞬間に、それを見たピーズ好きの知人に、ひとこと「写真!」とだけツイートされたほどです。自分でも、確かにつっこむよなあこれ見たら、と思う。

 

  で。この問題を解決するには、ふたつの方法がある。

 

①腹をくくってプロのカメラマンに撮ってもらう。

  仕事柄、一緒に仕事をしたことのあるカメラマンは多い。昔なじみの人なら、ちゃんとギャラを払えば、撮ってくれると思う。が、どうでしょう。恥ずかしくないですか、それを言い出すの。「何こいつ。タレント気取り?」て思われるでしょ。「兵庫のくせに」と腹の中で笑われるでしょう。

  あと、同業者とかで、そんな感じでカメラマンにちゃんと撮ってもらった写真を使っている人、けっこういるけど、そのうちの多くが、斜め左からの角度だったり、横顔だったり、ばしっと陰影入っていたりして、ちょっとでもよく写ろうという気合いが見えまくっていて、それにこっちが恥ずかしくなってしまうのも、躊躇する大きな要因なのだった。自分がそう思われるのは、ちょっと耐えられない。役者とかミュージシャンならわかるけど。

 

②似顔絵を使う。

  これ、ツイッターのアイコンとかでポピュラーな方法ではある。そうだ、俺、昔担当していた松尾スズキ×河井克夫ROCKIN’ON JAPANの連載マンガ『ニャ夢ウェイ』によく登場させられてた。似てた。

  あれ使おうかな、と思ったが、かつての勤め先の出版物に載ったものを勝手に使うのは、道義上まずい。かと言って許可を取るのも難しい、というか間違いなくめんどくさがられるであろうことが、立場を逆にして考えるとわかる。

  と思っていたら、DI:GA ONLINEでライブレポ連載が始まるにあたって、編集部から「似顔絵イラスト載せません? 河井克夫さんにお願いしましょうよ」という提案があった。描いていただいた。連載に使った。で、今はツイッターのアイコン等にもそれを使わせていただいているのだが(厳密に言うとDI:GA ONLINEがギャラを払ったので僕が勝手に使うのはちょっとアレなのだが)、これはこれで新しい問題があるのだった。

  似すぎているのです。「なんかこいつ腹立つ、いい歳して無邪気なフリして調子こいてて」ということまでが読み取れてしまうのです、その絵から。シンプルなタッチなのに、すごいのです、情報量が。

  さすが河井克夫、というか、おそるべし河井克夫。というようなわけで、今後、写真を頼まれた時、すべてこの絵を出していくっていうのもなあ……と、迷ったまんまで現在に至る。

 

  そんなある日。というか、3月18日。

  さいたまスーパーアリーナエレファントカシマシ×スピッツ×Mr.Childrenの超豪華イベントを、ABCラジオ『よなよな』火曜日コンビ、ライター/インタビュアー鈴木淳史&雑誌編集者原偉大と、並びの席で観た。で、開演前、隣でスマホをいじっている鈴木淳史にふと目をやって、愕然とした。

  待受画面を、自分のアップの写真にしているのだ。

  いや、自分大好きなタチだろうと思ってはいたが、ここまでか? こんなに億面もなくそれを出すか? 昔、松尾スズキは「自分好きさ」のことを「自分三時さ(オヤツのような愛しさ)」と表現したが、まさにそれ。鈴木三時淳史。

  思わず「マジか!」と、声を出してしまった。

「えっ、何がですか?」

「いや、あの、自分の写真を待受にしてんの?」

「え、そうですけど」

  と、彼が答えた次の瞬間、その隣の原偉大が「でしょ? 狂ってますよね!」と同意してきた。「えっ、変? そんなん全然気にしてなかったわ。なら言うてよお、原くん」と、鈴木淳史

  しかも。最近彼がよく使っているその写真、昨年の夏、テレビのサマソニ前アオリ特番に呼ばれた時、出る前に局のヘアメイクさんが髪も肌もしっかりいい具合にしてくれたので、「チャンス! 今や!」と、自撮りしたものだという。

  そんなに気になるの? 気になるという。普段、自分の写っている写真の大半が気に入らないという。僕なんかが彼を気軽に撮って気軽にアップする時も、本当はアップ前にチェックしたくてたまらないんだけど、「なんだこいつ」と思われるのがイヤなのでがまんしているという。

  写りによっては、アゴがシャクれてるように見えるところと、「前髪がおさまらない」ところのふたつが、そこまでナーバスになるポイントだそうだ。何? 「前髪がおさまらない」って。天パで髪が細くて毛が密集していないせいでハゲているように見える、だからそう見えないように前髪を整えるのが一苦労なのだ、という。

  試しに、前髪を上げて額を出してもらって見てみたのだが、確かに、デコは広いものの、ハゲているというほどではない。オールバックにしても成立するレベルを、まだ保っている。その割に、前髪を下ろすと確かにちょっとアレな感じになりがちではある。そうかあ。

 

  とにかく。「自分三時さ」をスマホの待受に刻みつける、こんな男も世の中にはいるのだということを知って、カメラマンに「写真撮って」って頼むくらい、それに比べればどうってことないかなあ、という気にはなっているのだった。

  じゃあ、最近会ったカメラマンに……誰に会ったっけ。大森克己。笠井爾示。平間至。橋本塁。岸田哲平。うーん……と、やはり、なってしまうのだった。

 

  ここまで書いてTLを見たら、鈴木淳史がこうツイートしていた。

 

  前髪がおさまらない。