兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

『きのう何食べた?』を熱心に観ている

※「うちの地方では『きのう何食べた?』は金曜深夜の放送ではない」という方で、テレビで観るまでストーリーを知りたくない、という方は、読まないことをおすすめします。

 

  2019年4月から始まったテレビドラマ『きのう何食べた?』。テレビ東京金曜深夜の『ドラマ24』というこの枠、『湯けむりスナイパー』『モテキ』『まほろ駅前番外地』『リバーズエッジ 大川端探偵社』といった一連の大根仁演出ドラマや、『孤独のグルメ』シリーズや、ひとつ前(2019年3月までのクール)の『フルーツ宅配便』(監督が白石和彌沖田修一松尾スズキが出ていた)など、いいドラマが多くて、もともとよく観ている。

  特に今回は「単行本が出た瞬間に買うほど原作を好きだったので観た」というパターンだった。『モテキ』はドラマで知ってマンガを読んだし、『孤独のグルメ』は、読んではいたけど全巻揃えるほどではなかったし。

 

  このマンガがドラマになることが発表になった時の、「シロさんとケンジ、それぞれはいいけど年齢が逆! 西島秀俊よりも内野聖陽の方が歳上じゃん!」という違和感が、一回目の放送で「あ、気にならないわ」って消えたせいか、毎回とても楽しく観れている。

 「山本耕史の小日向さんはもっといかつい見た目の人の方が……」とか、「佳代子さん、田中美佐子じゃ若くてきれいすぎない?」とか、「マキタスポーツの店長もいいんだけど、ドラマになるって知った時はレキシ池ちゃんだ! と思ったんだよなあ」(アフロなせいですね)とか、ポイントポイントで「ここの芝居大げさじゃない?」とか、そんなふうに、観ながら勝手なことを思ったりすることが、ないわけではない。

  が、それ以上に、「シロさんの両親、志賀廣太郎梶芽衣子もなんてバッチリなんだ」とか、「スーパー中村屋の店員の唯野未歩子、よく見つけたなこんなドンピシャな人!」とか、そういう喜びの方が上回っている。

  特に、ジルベール磯村勇斗。えっ、ダメでしょ。ジルベールって会ってみたら「どこがジルベールじゃ! 美少年じゃないじゃん!」って人なのに、磯村勇斗じゃ「ほんとだ、ジルベールだ」ってなっちゃうでしょ。と思ったが、第6話の初登場シーンを観てびっくりした。ちゃんと「どこがジルベールじゃ!」な感じになっていて。「これ磯村勇斗?」と目を疑いました。スタイリングやヘアメイクもあるけど、表情なんかの芝居も理想的なんだと思う。普通に「30歳になったばっか」に見えたし(実際は26歳)。

 

  あと、基本的に、原作に忠実にドラマ化されているんだけど、もちろんちょこちょこ変えている部分もある。その変え方が、観ていてカンに触らない、いい温度なので、変えた理由を考えながら観るのも楽しい。

  たとえば、第6話(基本的に3巻の「#20」と5巻の「#36」のミックス)だと、

 

司法修習生の女の子を押し付けられることを拒んだシロさんが、「40過ぎの独身男と若い女の子を一緒にして、もし何かあったらどうするんですか!?」と所長に言うが「もしそうなったら責任取って結婚すればいいじゃない♡」と返される、というやり取りが、ドラマでは別の会話に置き換えられていた。

 

・その司法修習生が転んで、助け起こそうとしたシロさんが腕をつかんで「ポッ」となるシーン、原作にはない。

 

・その司法修習生を連れて面会する医療ミス裁判の原告の男、原作では亡くなったのは奥さんだけど、ドラマでは80歳の母親。

 

ジルベールが着ているTシャツ、原作では「ぞう」だけどドラマでは「針ネズミ」。

 

・「鶏の水炊き」の手羽先、ドラマでは閉店間際の中村屋でそれしか残ってなくて、高くて躊躇するがそこに半額シールを貼られる、というシーンになっていたが、原作では家の冷蔵庫に残っていたのがそれしかなかった。

 

  こうして挙げてみると、けっこう変えられていますね。これ以外にもいろいろあります。にもかかわらず、観ていて「基本的に原作に忠実」と感じさせるところも、「なんでだろう」と考えるのが楽しいポイントですね。

  というわけで、とても楽しく観ているんだけど、観るたびに……いや、原作を読んでいる時から、いつも「そうなんだなあ」と思うことがひとつある。

 

  シロさんちって晩酌しないのね。

 

  ほぼ毎晩きちんと家で料理して夕食をとるのに、ごはんとおかずと副菜と汁物で、お酒は出てこないんですよね。

  ふたりとも飲めないわけではない。外に飲みに行く日もあるし、家で飲む日もあるし、休みの日に昼からビールを開ける回もあった。だけど、あくまで「時々飲む」レベルで、家で毎日飲む、ということはない。

  僕はけっこう料理する方だが、夕食に関しては「せっかく何か作るなら飲まなきゃ損」という考え方なので、飲む前提で料理する。今年から週に二回飲まない日を作るようにしたのだが、その日の晩飯は、外で雑にすませることが多い。

 

  だからどうした。いや、俺とは違うなあ、というだけなんですが。

  ただ、この「主人公が基本的に飲まない」「料理と酒がセットになっていない」というのが、このマンガが(おそらくドラマも)ヒットした理由のひとつな気もしてきた。そういえば、『孤独のグルメ』の井之頭五郎も、飲めない人ですよね。

 

  ちなみに、料理をする者として読むと、このマンガの画期的なポイントのひとつが、「めんつゆや顆粒だしを躊躇なく使う」ということだったんだけど、作者のよしながふみ、こだわりを持ってそう描いているようです。

  ネットで見つけたこのインタビューに、そういう話が出てきます。とてもいいインタビューです。https://book.asahi.com/article/12260452