兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

サザンオールスターズ/6月13日(土)@ナゴヤドーム、を観て驚いたこと

始まってしばらくして、自分が完全に「『葡萄』の曲どんどんやんないかな」「もっとやんないかな」「1曲でも多くやんないかな」というモードで観ていることに気づいて、びっくりした。

もちろんニュー・アルバム『葡萄』のリリース・ツアーなんだけど、サザンみたいにキャリアが長くて、国民的なスーパーバンドで、ライヴで全曲やるのが不可能なくらいヒット曲がいっぱいあるバンドの場合、どうしたって最新アルバムの曲よりも過去の曲のほうが望まれることになる。あたりまえだ。

2001年に雑誌BRIDGEで桑田佳祐にインタヴューした時(ソロの『波乗りジョニー』『白い恋人達』リリースの頃です)、本人も「だからもう正直、新しいアルバムを作る意味が、最近よくわからなくなっている」というような発言をしていた。曰く、新しい曲はシングルだけでいいじゃん、と。過去のベストヒット選曲の方がお客さんうれしいのに、必死で新しいアルバムを作って、望まれてない曲をライヴで聴かせる意味がわからない、と。だって俺もそうだもん、ローリング・ストーンズが来日したら最新作の曲よりも昔の曲の方が聴きたいもん、と。まあ、そう言いながらもその翌年『ROCK AND ROLL HERO』というすばらしいソロ・アルバムを作ったわけですが。

 

でも、僕もそうだ。ストーンズ、初来日からほぼ毎回行っているが、「ニュー・アルバムからいっぱいやってほしいな」と思ったことは、申し訳ないが一度もない。ストーンズの場合、そもそもツアーとニュー・アルバムのリリースが直結していない、というかニュー・アルバムなどめったに出ないというのもあるが、「なるべく最近の曲を聴きたいな」とは、まあ、思わない。

この間のポール・マッカートニーの来日も公演も、もしビートルズの曲がごっそりなくて、ウィングス時代やソロの曲が中心だったら相当がっかりしただろうと思う。ストーンズもポールもそんなこと重々承知だからああいうツアーをやっている、ということは言うまでもないが。

 

でも桑田は、サザンは、その壁を乗り越えたのだ。しかもこのたび『葡萄』で乗り越えた、というわけではない。活動休止前最後の作品であり、2枚組30曲入りというとんでもないボリュームだった前作『キラーストリート』も、思えばそういうアルバムだった。

なんでそんなことができたのはわからない。わからないが、『キラーストリート』『葡萄』の2枚とそれ以前の作品を聴き比べると、歌詞の明快さ、シンプルさ、わかりやすさ、ポジティヴさが大きく違う、というのはあきらかだろう。前向きさは、特に『葡萄』の方が顕著か。

ダブルミーニングや言葉遊びや英語が減り、誰が聴いてもわかる言葉で、具体的に、伝えたいことを伝えるための歌詞に変わっている。その言葉を伝えるためには、メロディも明快でわかりやすくて届きやすいものでなければならない──という理由で変わったのかどうかも、やっぱりよくわからない。そう考えて、そう心がけて作れば、そういう音楽ができる、というものでもない気がするし。

サザンもこんなあたりまえなことを歌うようになってしまったんだ、という古いファンもいるかもしれない。あ、俺も古いファンか。生まれて初めて自分の意志で買ったレコードが『勝手にシンドバッド』なんだから(小4でした)。

でもこの今のサザンのわかりやすい前向きさ、少なくとも僕にはものすごく刺さる。で、なんだかすごく泣ける。本来前向きな歌なんて好きじゃなくて、ネガティヴだったり暗かったり、アイロニカルだったり攻撃的だったりするような歌ばかり聴いて育ってきたのに(サザンや桑田ソロも含め)。

 

以上、「私はこうでした」という話です。お客さんみんながこうだったかどうかはわかりません。「ヒット曲もっとやってよー」という人もいたでしょう。が、少なくとも、『葡萄』収録のシングル曲は、どれもすさまじいウケ方をしていた。

 

あとひとつ。

桑田佳祐はアンコールが終わってステージを去る時に、オーディエンスに向かって必ず「死ぬなよ!」と言う。サザンの時もソロの時も言う。いつから言うようになったか正確には覚えていないが、少なくとも、自分が病気療養の末に復帰したからじゃなくて、3・11があったからでもなくて、もっとずっと前からそうだ。

で、これ、無理だ。誰でもいつか死ぬんだから。桑田も死ぬし、メンバーも死ぬし、僕も死ぬ。もちろんそんなことわかっていて、そう呼びかけることの空虚さも何度も味わってきていて、それでもそう言わずにいられない、そう言うしかない、だからダサいし恥ずかしいけどストレートにそう言ってしまう、みたいなあの感じ、僕はとても好きです。言われるたびに、少なくとも、次に桑田佳祐がステージに上がる時までは生きてなきゃな、と、素直に思います。