フラワーカンパニーズの本『消えぞこない』について
2015年9月16日(水)、フラワーカンパニーズ初めての単行本(鈴木圭介はエッセイ集と歌詞集を出しているがバンドとしてはこれが初)であるバンド・ヒストリーブック『消えぞこない メンバーチェンジなし!活動休止なし!ヒット曲なし!のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンライブにたどりつく話』が発売になった。
第一章がメンバー4人で語るヒストリー・インタビュー、第二章がメンバーひとりずつのパーソナル・インタビュー、第三章は「フラカン流・“消えない”バンドDIY術」というタイトルで、株式会社フラワーカンパニーズのグレートマエカワ代表取締役へのインタビューと、今年6月のツアーに3日間密着した同行記。そのうち、ライターとして、ヒストリーインタビューと、パーソナルインタビューのほとんどと、グレートマエカワ代表取締役のインタビューと、まえがきとあとがきを担当しました。パーソナル・インタビューの中でそれぞれが楽器について語っている箇所と、ツアー密着同行記は、本書の編集担当であるリットーミュージック藤井氏によるものです。
そもそも、今年の12月19日(土)にフラカン初の日本武道館を行うことが決まったのが1月頃。そしてリットー藤井氏が「ヒストリーブックを作りませんか?」と提案、それにレーベルとバンド側が乗り、グレートが「あ、ライター、昔からの知り合いで、ちょうどもうすぐ会社やめてヒマになる奴がいますよ」と僕を推薦してくれて、やらせていただくことになった。
僕のロッキング・オンへの最終出社日直後の4月半ば、リットーに最初に打ち合わせに行った。以下、藤井さんとの最初の会話。
「兵庫さん、フラカンとは長いんですよね」
「はい、長いですね」
「ジャパン誌でもずっと担当されてたんですよね」
「はい、してましたね」
「その後もずっと付き合いは続いてるんですよね」
「はい、続いてますね」
「なのに、なんでこれまでロッキング・オンで単行本を出そうと思わなかったんですか?」
「よくきいてくれました。売れないからです!」
初めて会っていきなり何言ってんだこいつ、という話だが、これ、本当に言いました。
挙句「本当に大丈夫ですか?」「取次通して書店に卸すんですか? ネット販売とライブ会場での直販だけにした方がよくないですか?」とすら口にしました。却下でしたが。
ロッキング・オン社在職中に、何冊も単行本を作った。会社から「これおまえがやれ」と命じられたものもあるし、自分で「これ作りたいです」と発案したものもある。まあ、サラリーマンだし、常に雑誌やウェブなどの編集作業と並行で作っていたので(ロッキング・オンには書籍の部署がなくて、各雑誌の編集部が作っているのです)、後者よりも前者の方が多かったが。
たとえば『電気グルーヴのメロン牧場』シリーズを3冊作れたのは本当にうれしい仕事だったが、あれ、僕がやってる連載じゃないわけで、僕じゃなくても誰かが作るわけだし(現にその3冊以外は別の担当者が作った)。北野武のインタヴュー本も光栄な仕事だったが、あれだってインタビューはすべて渋谷陽一で、編集は最初は違う担当が行っていたのを引き継いだのであって、僕が作ったのは全11冊中の5冊だし。
で。後者=自分で発案するものに関しては、「この部数を刷れない単行本は提案しない」という基準が自分の中にあった。その基準にフラカンははるか遠く届かない、という読みだったのです、僕の中ではずっと。
だから、昔ジャパン誌で圭介がやっていた連載コラム『フラカンけいすけの卑屈王』を、彼のエッセイ集『三十代の爆走』に入れたい、と他社から打診があった時も「どうぞどうぞ」と差し出した。あ、もちろん会社には確認をとったけど、「あげていいよ」という返答だった。なので『三十代の爆走』には、あの連載の中で行った圭介と斉藤和義との対談も入っていたりします。司会、私です。他社から出た本なのに。
話を戻す。というようなわけで、フラカンの単行本を作れることはないだろうなあと思っていたのだが、こんな形で実現することになった。ヒストリー・インタビューは3回に分けて計約6時間、個々のインタビューは2回に分けて計2時間から3時間、圭介は4時間以上(おしゃべりなので)みっちり行った。考えたら私、竹安と小西に単独でインタビューしたの、長い付き合いだけど初めてだった。グレートもひとりでしゃべってもらうのは、大昔にロッキング・オン・ジャパンで行った1回だけだった気がする。
結成26年にして初のバンドの単行本、ということは、結成25年まで出なかったわけで、それが今になって出る、というのは、なかなかに、感慨深いものがあります。僕としても、ここまで長い付き合いのバンドで「本を出す」という形で関わることがなかったんだから、これからもないと思っていた。「まさか今になってそんな仕事ができるとは」と、相当に、感慨深いものがあります。
内容も、これ以上ないくらい濃密なものにできたと思うし、ファンじゃない人が読んでも、「いっぺんメジャーからドロップアウトしたのにしぶとく自分たちだけで活動を続けて日本武道館ワンマンまでこぎつけたバンドのストーリー」として、とてもおもしろい本になったと思う。ぜひ読んでいただけるとうれしいです。
先週見本が届いたのだが、手にとった時、正直言って、これまで作ってきたどんな単行本よりもうれしかった。フラカンの本を出すなどという大英断をぶちかました藤井氏に感謝だし、僕を指名してくれたグレートにも感謝だ。ただ、親しいとかそういうことは置いといても、フラカンのバンド・ヒストリー本なら俺だろう、昔のことも今のことも含めていちばん詳しいライターはどう考えても俺だろうから、という自負もあるが。
なお、ライターとして雇われたので、編集はやっていません。全体の構成案や、ヒストリー・インタビューの章立てや、表紙や中面の写真の手配や構成などは藤井氏によるものです。何か、自分が得意でかつラクなところだけやらせてもらったみたいで、うしろめたい気がしないでもない。
ただ、書名の『消えぞこない』は僕が考えた。藤井氏と考えた書名案をいくつかバンドに渡して、その中からこれが選ばれたので、そこに『メンバーチェンジなし!~』の部分を藤井氏とふたりで考えてくっつけた。
後日、この本と同日にリリースされるミニアルバム『夢のおかわり』の1曲目のタイトルが“消えぞこない”だということを知って愕然としましたが。本のタイトルからひらめいて曲を書くって……圭介らしいけど。あと、フラカン関係の知人友人に「いいタイトルでしょ」と言っても大半の人が複雑な表情を浮かべるのみで「いいね」という声はほぼ皆無だったので、「少なくとも圭介は気に入ったんだな」と、うれしくもありましたが。
これを書いている9月17日(木)24:41からTBS系で放送の『ゴロウ・デラックス』のゲストはフラカン、課題図書はこの『消えぞこない』です。ご覧になれる方、ぜひ。
あと、10月16日(金)にミュージックランドKEY渋谷店で、この本の発売記念トークショー&ミニライブもやるんですね。
「やるんですね」というのは、私、知らなかったのです。公式サイトを見て初めて知って、藤井さんに「やるんですね」とメールしたら「ぜひ遊びに来てください」と返信が来ました。
教えといてよ!と思ったが、思い当たるフシがなくもない。最初グレートが「書店でサイン会をやりたい」とか言っていたのに対して、「書店のサイン会をなめるなよ! 人が来ないとそれはもうおそろしいことになるぞ!」と猛反対したので、「あいつに言うとうるさいから教えないでおこう」ということになったんだと思う。行きますけども。
あ、あとそれから、帯の推薦文が伊集院光!というすばらしすぎることになっていますが、これも藤井氏のがんばりで、私はノータッチです。伊集院光がフラカンを好き、というのはファンならみんな知ってることだけど、私、中毒レベルの「深夜の馬鹿力」ヘヴィリスナーであり本もDVDも伊集院作品は必ず買う程度にはファンなもんで、藤井氏から「OKのお返事、きました!」と知らせがあった時は震えました。そしてコメントが入った帯のデザインが藤井氏から届いた時は、さらに震えました。
僕の本じゃないけど、あくまでフラカンの本だけど、むこう数年分の自分の運を、これで使い切った気すらします。
フラワーカンパニーズ初のバンド・ヒストリーブック『消えぞこない』、公式サイトはこちら。http://www.rittor-music.co.jp/flowercompanyz/