スピッツとユニコーンと石野卓球のニューアルバム、そしてサニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』について
先々週スピッツ、先週石野卓球とサニーデイ・サービス、今週はユニコーン、と、うれしいニューアルバムだらけでリピートして聴くのが忙しい、中年邦楽ロックファンあるある。
と、8月9日にツイートした。スピッツ『醒めない』が7/27、石野卓球『LUNATIQUE』とサニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』が8/3、そしてユニコーン『ゅ 13-14』が8/10、と、すばらしいアルバムがどんどん出たことについて、そう書いたのだった。
で。スピッツは、エンタメステーションにアルバム・レビューを書いた。
ユニコーンは、週刊SPA! とRO69とリアルサウンドにアルバムレビューを書いたし、CREA、タワーレコードのフリーペーパー、DI:GA、DI:GA onlineでインタビューをした。
石野卓球は、レビューとかは書いていないが、日刊SPA! でインタビューをした。
内容が内容なだけに、いわゆる「めちゃくちゃバズった」みたいなことになったようです。
SPA! 編集部の担当から、お礼のメールが来ました。
「編集長からも『ぜひ今後もこういったインタビューをお願いします』と、ことづてを受け取りました」
だそうです。
すみません、これをしょっちゅうやるのは無理です、あらゆる意味で。
で。サニーデイ・サービスに関しては、ROCKIN’ON JAPAN10月号で曽我部恵一にインタビューしたんだけど、それ以外では、特に書いていなかったのだった。
ということに、今気づいた。
あ、JAPANのその号の告知、こちらです。
このインタビュー、曽我部、かなり踏み込んだ話をしてくれています。
曰く、サニーデイなんてもう終わってると。もっと若くていいバンドいっぱい出てきてるんだから、みんなそういうのを聴けばいいじゃんと。懐メロとして存在していくならわかるけど、新しいアルバム作る意味なんてあるの? と。
という、己に対する疑問に打ち勝つために、長い時間かけて、さんざん曲を作ってはボツにして、レコーディング予算的にも破綻しながら作り上げた、と、そういう話です。
そのためだけに、じゃないだろうけど、そういう要素もあったんじゃないかと思う、と。
ぜひ読んでいただけるとうれしいです。
で、それはそれとして、このサニーデイ・サービスの『DANCE TO YOU』がどういうアルバムなのか、僕なりにも、ちょっとここに書いておきたいと。
これは、曽我部恵一が、様子のおかしい若者に戻ったアルバムです。
曽我部恵一BANDでツアーしまくっている頃、確かシングル「魔法のバスに乗って」とアルバム『キラキラ!』の時だったと思うが、曽我部にインタビューしたら、今の自分がやっているのは、いち生活者としての音楽だ、と言っていた。
こうして東京で生活していて、働いていて、家族を養って生きている、その毎日から出てきたものであると。
ワークソングだったり、ライフタイム・ソングだったりする、ということですね。で、ヒップホップからの影響等もあるし、具体性のあることを歌いたい、直接生活や人生に響く言葉を歌いたい、と。
だから、かつてサニーデイ・サービスでやっていたのは、もっと青春的で、抽象的で、叙情的なものであった、と言ってはいなかったが、まあそういうことになるのだと思う。
なお、今調べたら、『キラキラ!』は2008年の春リリースで、サニーデイが再結成したのはその年の夏、RISING SUN ROCK FESTIVALで、だった。
で。そのようなソカバンの、あるいはソロのカウンター的な表現として、思春期的で、抽象的で、叙情的な音楽を、サニーデイ・サービスで……ちょっとこのあたり言い方が雑だけどかんべんしてください。とにかく、サニーデイをそういうものとして始動させていたのか、というと、一概にそうは言えないと思う。
『本日は晴天なり』と『Sunny』の2枚は、そういうところもあったけど、そうじゃないところもあった。
そして、この『DANCE TO YOU』で、本当にそういうものになった、という。カウンターとかいうよりも、本当にそういう人に戻った、というか。
試しに、『本日は晴天なり』『Sunny』と『DANCE TO YOU』を続けて聴いてみると、よくわかる。びっくりする、音の質感から何から何までが違って。
『DANCE TO YOU』は、最初にいっぺん完成させたアルバムをボツにしたところでレコーディングの予算がなくなって、曽我部がリハスタ個人練習パソコン持ち込みレコーディング(つまりそのへんの中高生以下みたいな状態)で作り上げたアルバムなので、音質や音の触感が違うわけだが、でも、歌っていること自体、描いているもの自体も、大きく違うと思う。
「これは、曽我部恵一が、様子のおかしい若者に戻ったアルバムです」とさっき書いたが、曽我部さん、44歳なわけで、3児の父でもあるわけで、有限会社スタジオ・ローズの社長でもあるわけで、「若者に戻る」といっても、頭ん中が戻っただけで、立場としては、戻れない。
という状態って、いち生活者として、はたしてどうなのかと考えると心配にならなくもないが、ただ、そんなようなことによって『DANCE TO YOU』がすごい吸引力を持つアルバムになっているのは事実だと思う。
そうだ。曽我部ってヤバい奴なんだった、ということを思い出した。
いや、長い付き合いの中で、彼に失礼なことをされたり、イヤな思いをさせられたりしたことは、僕は一度もない。そういうヤバい奴じゃなくて、表現者としてヤバい奴、ということです。
あと、俺も人の心配していられるような状態じゃねえ。というのもあります。
だから、よりいっそうこのアルバムが刺さるのかもしれません。