兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

どうやって食ってるのかわからない人

 音楽業界・出版業界に入って26年目、フリーのライターになって3年目になるが、入ってわりとすぐに気がついた、きっとこの業界が他の業界と違うところのひとつなんだろうなあ、と思うポイントに、

 

どうやって食ってるのかわからない人がけっこういる

 

というのがあった。

 

マネージメントで、セールス・動員がこれくらいのバンドがひとつしか所属していないのに、社長・社員・メンバーみんななんで食えてるんだろう?みたいなわかりやすい例もあったし(レコード会社から育成金とかが出ていてそこから給料を払う、というシステムだったことをのちに知る)、「この人、本当になんでおカネを得ているのか全然わからない」というわかりにくい例もあった。

で。気がついたのですが。

今の自分、限りなくその後者に近いことになってないか?

 

音楽を中心にしたフリーのライター、と名乗っているし、実際にその界隈で仕事しているが、この間も「ライターとしてメインの媒体ってどこなんですか?」と訊かれて、「ないです」としか答えられなかったし。

そのように、「このライター、ここの仕事が中心なんだな」ということがわかるくらいいっぱい書いているメディア、ない。

連載のとかのレギュラー仕事、ないことはないけど、少ない。単発の仕事が多い。

著書もない。「フラワーカンパニーズの本、著書でしょ」と知り合いの作家は言ってくれたが、あれ、あきらかに僕の本じゃなくてフラカンの本だし。

「このバンドが動く時は兵庫に書かせよう」みたいな感じで、レーベルなりマネージメントなりからいただくオフィシャル・ライター的な仕事、ありがたいことにいくつかあるが、それももちろん「必ず」というわけではないし。

 

そんなにいっぱい仕事してるっけ? 食えるくらい書いてるっけ?

えーと、私、基本的に、雑誌もウェブも、記事が世に出るとツイッターで宣伝するようにしているのですね。それを1ヵ月分全部見ていただくと、まあまあの量になりますよね。

プラス、たとえば、エレファントカシマシフラワーカンパニーズのファンクラブの会報からよく仕事をいただいているのですが、それ、ツイートするのやめたのですね。宣伝したところでファンクラブの会員しか読みようがないし。

というふうに、ツイートしていない仕事もちょっとあります。というところまで含めると、なんとか生活していけるくらいの月収になりません?

 

というところまで、僕の仕事のことを把握している人は、まあ、いないと思う。というか、僕しかわからないと思う。

なので、ハタから見ると、「週刊SPA! に月にいっぺんくらいCDレビュー書いてるだけなのに、なんで食えてんの?」「ROCKIN’ON JAPANでちょっとインタビューしてるだけでなんで生活できんの?」「kaminogeのコラムって、それだけで食えるくらいおカネくれるの?」みたいなふうに見えるだろうなあ、という話です。

 

ただ、自分でも「なんで俺、食えてるんだろう?」とは、よく思う。

まだ2年半食えてるだけだが、フリーになる時は、もっと苦労するだろうと思っていた。

僕は自分の名刺の肩書に「ライターなど」と入れているんだけど、その「など」というのも、ライターだけで食うのが無理になった場合のためにつけたんだと思う。

「ライター・編集」とか名乗るほど編集に自信あるわけじゃないが、「ライター」だけだと「ライターの仕事以外やりません」みたいに見えるかも、という弱腰な理由です、おそらく。

それこそ、フリーになった当初は、コンビニの店員が自分と同じ年齢くらいの風貌だと「よし! 俺も雇ってもらえる!」って安心したりしていたし。

いや、「当初は」じゃないな。今でもけっこうそうだな。

 

この間、「なんで食えてたんですか?」と訊いて、「それで食えてたんだ!」と本当にびっくりさせられた、知人の例があった。

初めて会った二十数年前は、誰でも知っている大人気バンドのマネージャーだった。

そのあと、ロック・ファンなら知っている人気バンドを発掘し、世に送り出した。

で、そこから先は、自分で事務所を立ち上げたりとかいろいろしていたんだけど、いつの間にか会う機会がなくなっていて、先日、久々に顔を合わせたのだった。

 

「ここ数年、何やってたんですか?」と訊いたら、業界内の某大手の会社の偉い人と親しくて、「新人を発掘してよ」ということで、毎月「発掘代」みたいなおカネが、それだけで食えるくらいの額、振り込まれていたという。

で、実際の仕事は、月に一回「今月はこうでした」というレポートを出すだけで、そのまま数年間が経過したという。

 

「毎日何してたんですか?」

「んー、何もしてなかったねえ」

「……」

 

さすがに「もう無理」みたいなことになって、それが終わって、だから新しい仕事を始めていて、その関係で僕も会ったわけなんだけど、「そんなことあるんだあ」と、とてもびっくりしました。

いいなあ、俺にもないかなあ、という気もするが、「もしあってものっかったら絶対ヤバいことになる」という気もする。あ、その人は、特にヤバいことにはなっていませんが。