兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

夏フェスは暑い

  昔の日本の夏の暑さと今の日本の夏の暑さは違う。今の方が断然きつい。なのに、いまだに夏の高校野球大会を7月から8月に、つまり1年のうちでいちばん暑い時期に行っているのは、いかがなものなのか。なぜわざわざその時期にやらなければいけないのか。球児たちのことを考えるなら、前倒しするなり遅らせるなりするべきではないのか。

 

  というような議論、夏になると毎年必ず見かける。去年か一昨年あたりから「こんなに暑くて2020年の東京オリンピックは大丈夫なのか」という問題提起も出るようになった。

  もっともだと思う。たとえばインドとかの昔から死ぬほど暑い国の人たちから見たら、真夏の屋外の高校野球なんて「正気か?」というふうに見えるだろうし。

  ただ、我々の場合、そんな高校野球の異常さを指摘している場合ではないのだった。そうだ。夏の野外のロック・フェスだ。1年でいちばん暑い時期に、何を好き好んで、しかも安くないカネまで払って、朝から晩まで1日中屋外ですごすのか、我々は。という問題だ。

  つい数年前まで「だってそういうもんじゃん」と思って納得していたのだが、それこそ「高校野球どうなのよ」という議論が出始めた頃、それよりも「夏の野外フェスってどうなのよ」の方が、自分のような人種にとって喫緊の課題であることを、自覚せざるを得なくなったのだった。

 

  特にこの問題、真夏以外の時期の野外フェスに行くと、身体で思い知ることになる。

  ゴールデンウィークの前半に開催される『ARABAKI ROCK FEST.』に初めて行った時は、衝撃を受けたものです。「す、すごしやすい!」と。寒くて大変な年もあるらしいが、僕は当たったことがない。

  行ったことのある方はご存知だと思うが、『ARABAKI』の特徴って「黄緑」なのだ。自然に囲まれた素敵な環境なんだけど、まだ春先で、緑が濃くなくて全体的に黄緑なのね、木も草も。あれを見ると「ああ、『ARABAKI』だなあ」と思います。とても気分がいいです、その場にいること自体が。

  それくらいから6月頭の『TAICOCLUB』あたりまでは、夜は寒いこともあるが日中はとにかく快適である。で、7月に入ると暑くなり始め、フジロック→ロック・イン・ジャパン→サマーソニックくらいが暑さのピークになる。

  で、9月に入るとやや落ち着き始め、10月8日前後の『朝霧JAM』になると、山の中であることも手伝って「陽が暮れると鬼寒い」というような具合になる。日中はTシャツ1枚でも大丈夫、でも寝る時は持って行った衣服すべて着て寝袋に入ってガタガタ震える、そして朝目が覚めると陽が昇っていて寝袋の中で汗びっしょりになっている──というのが、天気がよくて富士山が見える時の『朝霧JAM』です。

 

  今年の春から初夏にかけては、『ARABAKI』『VIVA LA ROCK』『JAPAN JAM』『METOROCK(東京の)』『TAICOCLUB』に行った。『VIVA LA ROCK』は屋内だから除くとしても、いちばん暑かった『METROCK』でも、真夏のフェスに比べたらはるかに快適だった。あたりまえなんだけど。まだ夏じゃないんだから。

  書いていて思い出した。昔、会社の後輩の子が『朝霧JAM』に行きたいと言うので、一行に加えて連れて行ったことがある。

  出発前夜、その子が家で準備していたら、お母さんが「どこに行くの?」と訊いて来た。

 「野外フェス」「どこであるの?」「朝霧高原」「泊まりはどうするの」「テント」

  そこでお母さんにこう言われたという。

 「あなた! 秋よ!」

  確かにそうなのね。キャンプって夏のもんなのね、あたりまえに考えたら。

  というわけで、フェスに限らずかもしれないが、自分は異常なことをしているのかもしれない、という自覚は、持っておいた方がいいんだなあ、とよく思うのでした。

  考えたら、今でも仲いい高校の頃のバンド仲間とか、普段よく一緒に飲む音楽業界以外の知人とか、みんな「フェス? 行ったことない」って人ばっかりだし。