兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

己のキモさに気をつけよう

   9月20日の夜、大阪ABCラジオ『よなよな』木曜=鈴木淳史&原偉大の生放送の終わり際にちょっと出演させてもらって、思いつくまましゃべったことを、ちょっとちゃんと書きたくなったので、久々にブログを更新することにしました。

 

  この9月20日から23日まで、僕は関西にいた。そもそもは、きのこ帝国のニュー・アルバム『タイム・ラプス』の特設サイトに掲載される、佐藤千亜妃のオフィシャル・インタビューを、レーベルからご依頼いただいたところまでさかのぼる。彼女にインタビューしたのは初めて。前からきのこ帝国大好きだし、『タイム・ラプス』めちゃめちゃいいアルバムだし、とてもうれしい仕事だったのだが。

  このアルバムのツアーは、東京と大阪の2本だけ。で、東京の9月23日新木場スタジオコーストは、くるりのフェス『京都音楽博覧会』と日程が当たっていて、行くことができない。でも、せっかく仕事させてもらったし、『タイム・ラプス』の曲たちをライブで聴きたいし、じゃあいっそ20日の大阪なんばHatchまで観に行って、23日の『京都音博』まで関西にいることにしようかな、と。

  そういえば、GLIM SPANKYの企画イベントも東京大阪の2本で、東京の9月24日は別のライブ仕事で行けない、大阪は21日に味園ユニバースだ、じゃあ大阪で見せてもらえばいいじゃないか。というわけで、行くことに決めたのでした。

 

  で。関西行きを数日後に控えたある日。佐藤千亜妃のツイートを見て、その大阪なんばHatchのライブの日が、彼女の30歳の誕生日であることを知る。あ、そうなのか、終演後に関係者挨拶とかあるだろうし、じゃあ何かプレゼントでも用意した方がいいか、誕生日だって知っててスルーするのはちょっとなんだしな、何がいいかなあ……などと考えていて、ハタと気がついた。

 

  気持ち悪くないか? 俺。

 

  佐藤千亜妃の身になって考えてみていただきたい。数年前から何かっちゃあきのこ帝国をいいとか好きだと書いていた50がらみのおっさんライターに、仕事を1本依頼したら、その後の自分の誕生日のライブに、わざわざ大阪まで来た。しかもプレゼントを持って。

  どうでしょう。恐怖以外の何ものでもないでしょう、それは。いやいやいや、違うんです、そういうつもりじゃないんです、ただライブ観たいだけなんです、単に東京の日がダメだったんであって、その日が誕生日なのもたった今まで知らなかったくらいで……。

  どうしよう。手ぶらで行くのはやっぱりあれだけど、変に気合いが入ったものとかあげるのはヤバい、そうだ消え物がいい、食べればすぐなくなる少量のお菓子とかだな、そして万一スタッフとかに誘われても打ち上げに出るなんて絶対ダメ、終演後の挨拶を終えたらサッと会場を去ること! いや、もともと、終わったらABCに行って生放送終わりで彼らと飲もうと思っていたんだけど。そしたら「じゃあ放送にも出て」ってことになったんだけど。

  とにかくそのように考え、行きつけの焼き鳥屋で「キモく思われないためには何をさしあげるべきか」という相談までしてプレゼントのお菓子を買い、大阪まで行ってライブを観て、終演後の挨拶で本人にそれを渡し、そそくさと会場を出たのだった。

  そして、その勢いで『よなよな』に出て、もう我々はそんなふうに己のキモさに自覚的にならなければいけないステージに来ているんだ、きみ(鈴木淳史)と俺の違いはそこだ、きみはまだ自覚が足りない、俺はもう思い知ってるからそのへんに関しては、というようなことを、しゃべりまくったのだった。

 

  ここまで書いて気がついたが、ということは、僕は現在まで、己がそのようなキモいおっさんと化す危険性に関して、無自覚のまま生きて来たということになる。これまで、同じようにライブにマメに通いつめたり地方まで追っかけたりしていた相手が、奥田民生とかエレファントカシマシとかフラワーカンパニーズとかいったような、おっさんもしくはあんちゃんのミュージシャンばかりだったせいだ。佐藤千亜妃のようなミュージシャンにそういうことをしたことがなかったもんで、そこまで考えが及ばなかった、というか及ばせる必要がなかったということか。

  そういえばCharisma.comも大好きだけど、「マメに追っかけ回す」ほどのライブの本数じゃない人たちだったから助かっていたのか、俺は。じゃなかったら、彼女たちに対してもキモいおっさんになっていたかもしれない。

  ……あ! そういや今年の1月、魔法少女になり隊を観に名古屋のE.L.L.まで行ってしまった。この時もインタビューしたばかりだったのと、ツアーの東京の日程が先約のライブ仕事があって行けない状況で、でもワンマン観たい、そうだ名古屋在住の友達と飲みたいからそいつと飲むことにして理由をふたつにしよう、というわけで、そうしたのだった。

  ご本人たち、「名古屋まで来てくれたんですか?」と驚いておられた。ヤバい。gariとウイ・ビトンはいいが、火寺バジルと明治さんに対して、とてもまずい。呼んでもないのに名古屋まで来た。しかも自分のお父さんくらいの歳のおっさんが。怖い。怖すぎる。

  いや、普通のファンならいいよ? ファンであるという時点で、どこまで追いかけ回そうがその人の自由だし、言ってしまえばそうやって追いかけ回されることでミュージシャンは生計が成り立っているとも言えるし。でも俺はそうじゃないし。音楽業界人であって、彼女たちと仕事をして原稿料を得たりする立場なわけだし。

 

  住宅街で道に迷い、通りすがりの女性に教えてもらおうと声をかけたら、ギョッとされて一目散に逃げられた。ショックだったが、そのことによって、スーツ姿じゃない中年男性が、平日昼間の住宅街をウロウロしているという時点で、十二分に「怪しい人」ということになるのだ、と気がついた。

  というコラムを、以前、小田嶋隆さんが書いておられた。その方向でフルスロットルなケースが、今回の私のこの件、とも言えましょう。

  そうか。そりゃそうよね。『おっさんズラブ』だって、吉田鋼太郎だから視聴者にかわいいだの健気だの言われて愛されたわけで、あの役を蛭子能収とか温水洋一がやっていたら、あんなに人気出なかっただろうし。で、自分が鋼太郎サイドか蛭子温水サイドかと問われれば、明らかに後者だし。

  でもほんとはそっちの方がリアルなんだけどな。思い出した。大根仁監督のテレビドラマ版『まほろ駅前番外地』の、黒木華が自分を捨てて他の女のところへ行った元婚約者の指輪を取り返したいと依頼して来る話、そのモテモテの元婚約者、ハゲててもっさい役者を起用していた、大根さん。

  そう、現実ってこういうもんだよな、さすが大根さんだなあ、と感心したものです。

 

  最後に思いっきり話がそれたが、とにかく、日々気をつけて生きていくことにします。