兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

「捨て酔っぱらい」したことあります?

  酔いつぶれた連れを放置して帰る。というの、そんなにめずらしくないことなんでしょうか?

  先日、初めてそういう光景に出くわしてびっくりしたのでした。「捨て犬」「捨て子」ならぬ「捨て男」、もしくは「捨て酔っぱらい」とでも言いましょうか。

  行きつけの焼き鳥屋で飲んでいたら、すでにかなり飲んだらしい男3人が入って来た。見たところ、3人とも20代後半。ひとりが「俺のこと憶えてますか?」と大声で女将に問いかけ、女将が「ああ、××さんでしょ、何度か来てくれたよね」などと答えている。

  まずその××さんが、注文したハイボールが出て来る前にカウンターにつっぷして眠り始め、まもなくその隣の男もつっぷし、起きているのは端のひとりだけになった。で、しばらくしたら彼は先に帰って行き、つっぷした男ふたりが残される。

  終電まで1時間を切ったあたりで、あとにつっぷした方が目を覚ました。で、女将に話しかけている。

 「俺、離婚の危機なんですよぉ」

 「ダメですよ、ちゃんと連れて帰ってくださいよ」

  なんで急に「俺、離婚の危機なんですよ」とか言い出したのかわからなかった僕は、そのひとことで「こいつ連れを置いて帰ろうとしている」と理解した女将に「さすがプロ!」と思ったが、感心している場合ではない。

 「本当にもう帰らないと離婚されるんです」と食い下がる男。「あと20分で閉店だから。私も帰るんだから困ります」「でもなじみなんでしょ?」「いや、ずいぶん前に二、三度来たことがあるだけです!」──。

  思わず見かねて「いやいやいや、ありえないでしょ!」と加勢する。「家どこなの?」「俺、明大前です」「いや、あなたじゃなくて、このつぶれてる人!」「梅ヶ丘です」「なら途中じゃん! タクシーで落とすとかできるじゃん!」とつぶれている男を無理矢理起こし、肩を貸して店の外に出した。彼を抱えながら、置き去り未遂男はヨロヨロと去って行く。

 

  仕事関係とか会社の先輩後輩とかというよりも、学生時代の友達3人が集まって飲んだ三軒目、みたいに見えたが、しかし、つぶれたからって置いて帰る? 友達でしょ?

  いや、先輩後輩でも、仕事関係でも、置いて帰らないか、つぶれた人。僕は30年以上にわたって日々酒に飲まれる生活を送ってきたので(少しは恥じろ)、つぶれたこともつぶれられたこともあるが、置いて帰られたことも置いて帰ったこともない。

  以前勤めていた会社で、新年会とか送別会とかの席になると……いや、そういう時でなくても、とにかく飲む機会があると、過剰にアルコールを摂取した末に、丸太ん棒のように昏倒することをライフワークにしている後輩がいた。やむなく誰かが家まで搬送することになるのだが、僕はそんな彼を、住所を知らないのに送って行ったこともある。

  深夜作業の時、タクシーに相乗りして帰宅することがよくある彼の上司の、「いつもこのへんで下ろす」という言葉を頼りに、ふたりがかりでそのあたりまでタクシーで連れて行き、下りたはいいが家がわからず、昏倒した丸太ん棒を道端に置き、「確か公団だって言ってた」というヒントを頼りに、その近辺の公団っぽいマンションを片っ端から探し、ポストに彼の苗字を発見、その部屋の前まで担いで上がり、彼のカバンから鍵を探し出して差し込む。開いた! というわけで、ベッドに転がして帰宅したのだった。

  そこまでしなくてもいい気もするが。でも、そのへんに捨てとけないし。丸太ん棒になったのが、お店じゃなくて道端だったら捨てたかな。いや、でもなあ。

 

  なお、ふたりを追い出したあとの、女将のひとことにもしびれた。

 「うちで酔っぱらったんなら面倒みるけど、よそで酔っぱらってきた人は知らない」