兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

日本の俳優、美男美女過ぎ問題

  もう1年近く前になるが、日本の俳優が、男前だらけ過ぎることについて、このブログに書いたことがあった。

これです。

http://shinjihyogo.hateblo.jp/entry/2018/12/17/105515

 

  まあそれを言い出したら、女優なんてもっとそうだし、日本だけじゃなくて海外だってそうだし(韓国映画はそうでもなかったりするけど)、要は、言ってしまえば、美男美女じゃなければないだけ稼げる俳優に育つ確率が下がる、だからどこの事務所も美男美女を探す、というのは、まあそうなるよなあ、とは思う。

 

  思うがしかし、映画にしてもドラマにしても、「そこまで美男美女揃いじゃあ、リアリティってもんがねえよ」と感じてしまうことは、やっぱりよくある。

  たとえば、9月に終わったNHK朝の連続テレビ小説なつぞら』。賛否両論いろいろあったこのドラマだが、僕は毎朝楽しく観ていた。朝7時半からNHK BSプレミアムで一回、8時からNHK総合でもう一回観ていたくらいなので、熱心な視聴者だった、と言っていいと思う。

  しかし。なつ(広瀬すず)たちが東洋動画で働いていた頃は、井戸原さん(小手伸也)とかいたからまだよかったが、マコさん(貫地谷しほり)が立ち上げたマコプロダクションに、主要な登場人物がみんな移って以降は、さすがに「いくらなんでも!」と言いたくなった。

  広瀬すず中川大志貫地谷しほり染谷将太渡辺麻友。犬飼貴丈。伊原六花。という面々が集まって働く会社。何それ。モデル事務所? え、アニメの制作会社なの? ないわ。ありえないわあ。というですね。

  伊藤修子を投入したのは、そのあたりのバランスをとろうとしたのだと思うが、全然足りない。よしもと男前ランキング最高位2位(2007年)、でもこの中では貴重なリアリティ側の人である麒麟川島とプラスしても、まだまだ弱かった。

 

  と、なんでとうに終わった『なつぞら』のことを今さら蒸し返しているのかというと、その「役者美男美女過ぎ問題」に意識的に向き合っていて、それによって引き起こされる「リアリティない」というデメリットをなんとかしようとしているクリエイターもいるんだなあ。と思わせる映画を、最近、二本続けて観たからなのだった。

  一本は白石和彌監督の『ひとよ』。もう一本は瀬々敬久監督の『楽園』だ。

 『ひとよ』は、佐藤健鈴木亮平松岡茉優の三兄妹とその母親である田中裕子が軸の話なのだが、さすが「イケメンが好きじゃないんですよ」と公言する白石和彌だけのことはある。松岡茉優が「今までに観たことがないくらい汚い佐藤健」と言っていたが、僕が思ったのもまさにそれだった。

  というか、あんたもな松岡茉優鈴木亮平もな! 四人の次に重要な役の佐々木蔵之介もな! と言いたくなるほど、見事に素敵じゃない、どの人も。うらぶれているし、鬱屈しているさまが、表情や言葉や立ちふるまいに出ていて。

   『楽園』の方は、綾野剛は白石作品の『日本で一番悪い奴ら』などで、素敵じゃない役をやるとちゃんと素敵じゃなく仕上がる人だということを知っていたが、杉咲花にはびっくりした。東京の市場でガラガラとワゴンを押して働いていたりする役なんだけど、「こんなかわいい子、働いてねえよ。いたら目立ってしょうがねえよ」という具合には、なっていないのだ。ギリギリのところで「まあ、いるかも」というラインをキープしているのである。なんだキープって。

  言っておくが、杉咲花がかわいくない、というわけではない。めちゃめちゃかわいいが、なんというか、不思議に「いねえよ」感のないかわいさなのだった。ただ、彼女の過去の出演作品がどれもそうだったかというと、そんなことはないわけで、つまりこれは撮る側=瀬々敬久の、手腕の問題なのだと思う。

 

 『ひとよ』は三兄妹と監督のインタビュー、『楽園』はフィルムレビューの仕事があったので、どちらも早めに試写で観たんだけど、そのポイントにおいて同じことを感じたもので、何か書いておこうと思ったのでした。