兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

バンドTシャツを着れない

 6月18日の金曜日、サンボマスターを観に、中野サンプラザへ行った時のこと。

 サンプラに入るところで、僕の前を歩いていた男、洋楽のバンドっぽいTシャツを着ている。正面から見れなかったので、間違っているかもしれないが、たぶんラモーンズあたりのやつ。で、肩には、フラワーカンパニーズのトートバッグをかけていた。

 というのは、まだわかる。が、その1週間前の6月10日(木)、Zepp Hanedaへくるりを観に行くため、天空橋駅を目指して京急線に乗っていた時。僕の隣の男、今年=2021年の『VIVA LA ROCK』のフェスTシャツを着て、肩に花澤香菜のトートバッグをかけている。で、天空橋駅で下りたところで見失ったが、その後、Zepp Hanedaの中で見かけた。

 くるり花澤香菜、音楽的に近いとは思えないし、どちらも今年の『VIVA LA ROCK』に出ていない。三つが三つとも、見事に関係ない。なぜそのTシャツで、そのトートを提げて、くるりを観に来るのか。

 

 と、疑問を持つこと自体が、己がズレていることを表している。「ズレてる方がいい」ということはない、ズレてないに越したことはない、この場合。という自覚はあるのだった。 

 つまり、ライブに行ったらグッズを買うこと、普段グッズを着る・持つことが、完全に日常化していて、「持ってるTシャツ全部、何かのグッズ」みたいな具合になっており、「今日は○○のライブだから××のTシャツ」とかいちいち気にせず、あたりまえに毎日着ている、というライフスタイルの人が、そんなにめずらしくなく存在する、ということである。

 というか、そういう人は、誰のグッズかわかって買っているだけ、まだいい方かもしれない。

 特に洋楽に顕著だが、それがバンドTシャツであること自体を知らずに着るのが、今は普通なんだから。ファストファッションのチェーンが、こぞってその手のTシャツを出すようになって以降。

 ジョイ・ディヴィジョンの『UNKNOW PLEASURES』のTシャツを、あちこちで見かけるようになった時は、「え、なんでなんで?」と、びっくりしたものです。ファクトリー・レコードのデザイナー、ピーター・サヴィルがアートワークを手掛けた作品をTシャツ化するシリーズをユニクロが始めて、その中で、特に売れたのがあれだった、ということを、あとで知って、納得した。

 こういう場合、イアン・カーティスの遺族には、おカネ、入るんだろうか。入らないんだろうな。

 

 というふうに、人が着ているバンドTシャツやフェスTシャツの類いが、とても気にかかる。街で見かけたりすると、その度に「おっ!」となる。で、ライブハウスとかレコード屋とかロック・バーとかよりも、音楽から離れた場所であればあるほど、その趣深さが増す。スーパーマーケットとか。墓地とか。

 Theピーズ日本武道館Tシャツを着ている、赤ちゃんを抱いたお母さんを、スーパーオオゼキで見かけた時は、喜びのあまり、あとをつけそうになった。変質者だ、そこまでいくと。

 

 なんでそんなに気になるのか。理由は、はっきりしている。

 着れないからだ、自分は。

 バンドTシャツ以前に、前面にプリントがあるTシャツを着ることができないのだ。プリントの類いは一切ダメ、ならまだわかるが、胸にワンポイントと背中にプリントは平気なのに、前面はダメなのが、我ながらよけいややこしい。

 若い頃は普通に着ていたのに、20代の半ばくらいから、なんか、そうなってしまったのだった。

 就職して1〜2年は、レコード会社からバンドTシャツをもらえるのがうれしくて、よく着ていた(当時、特に邦楽では「グッズとして売る」ことは、今ほど発展しておらず、「レコード会社が販促品として作る」ことが多くて、媒体の人間によくくれたのです)。

 が、ある日、某バンドにインタビューをしている途中で、自分が別のバンドのTシャツを着ていることに気がつき、「しまった、失礼だった!」と、激しく後悔した。

 それからは、「今日は××のインタビューだから」とか配慮するよりも、出勤日はバンドTシャツを一切着ないことに決めた方がラクだ、と判断し、そうした。

 すると、だんだん土日も着なくなった。で、さらに、プリントTシャツ自体を着なくなり……で、どこの段階でそうなったのか、自分でもわからないが、いつの間にか「着ない」が「着れない」に変換され、無地のTシャツしか持っていません、という現在に至るのだった。

 

 人が着ているのを見ても、恥ずかしいとかは、全然思わない。むしろ、うらやましい。会う度に、インパクト抜群のプロレスTシャツを着ている爪切男さんとか、素直にいいなあと思う。って、「バンド」から「プロレス」に広がってるな、Tシャツの範囲が。要は「グッズとしてのプリントTシャツ」全般の話です。

 というところで言うと、東中野のハードコアチョコレートとか、上馬のホーリーシットとか、本当は、店頭で、心ゆくまでじっくりTシャツを物色したい。でもできない。買わないので。

 

 というわけで。水道橋博士が週イチペースで行っている阿佐ヶ谷ロフトAのトークイベント、『アサヤン(阿佐ヶ谷ヤング洋品店)』のVol.12=2021年6月17日(木)の回のテーマが、『Tシャツ大戦争』だと知った時は、「ああっ、なんてナイスなんだ!」と思った。

 で、配信で、楽しく観た。ハードコアチョコレートのMUNE、京都の猪木絵師SETO SHOP、チームフルスイング、映画TシャツのJETLINKなどなどが、自身が作ってきたTシャツと共に次々と登場する、夢のような時間でした。

 7月1日(木)までアーカイブ視聴あり。アドレスはこちら。https://asayan.s-hakase.com/asayan12

 

 ちなみに、今朝は、ジョギング中に「長州力ハッシュドタグTシャツ」を着ている男とすれ違って、思わず二度見した。