兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021の中止、A.C.P.C.の共同声明

 ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021の開催中止で、つくづく思い知ったのは、たとえなんの強制力も持っていなくても、地元の公的な団体からの中止要請は無視できない、ということの怖さだった。開催1週間前に中止になった、4月のARABAKI ROCK FEST.も、そうだった。

 RIJF開催中止発表の直後に、女性自身が、その開催中止を要請した、茨城県医師会に取材をしている。で、「県内では他に様々なイベントが催されているが、なぜこのタイミングで『ロッキング・オン』だけに要請を?」という質問に、茨城県医師会事務局はこう答えている。

 「実は、茨城県医師会がフェスを開催されることを知ったのが、6月18日ごろだったのです。ひたちなか市医師会の役員の先生から『フェスが開催されることになって、医療提供体制とかそういった点から不安が大きいんだよ』という話がありました」

 

 この記事。

jisin.jp

  この中止要請、RIJF側としては、寝耳に水だったんじゃないか、と思う。1年以上前から、感染予防対策やコロナ禍での運営のしかたなどを入念に考え抜いて、フェスのスキームを大幅に変えて(1ステージだけにしたって、かなりなことだ)、それらを細部まで詰めて、当然、地元のひたちなか市茨城県や、交通や警察や保健所や宿泊施設の団体などと、何度も話し合いを重ねて、開催を決めて、ここまでこぎつけた。

 ただし、地元の医療関係者のみなさんは、なんにも知らされていなかった、なんてことは、ありえない。当然、話は通っていたはずだ。これまで20年、フェスに協力してきたんだから(体調不良者のケアとか、時には救急車を出すとか)。ましてや、今年はコロナ禍という、例年とは違う状況なんだから。

 で、ちゃんと了承をとって進めていたのに、突然中止の要請が来た。6月18日ごろまで開催を知らなかった? え、なんで?  という。

 って、このへんまったく想像で書いていますが、医療関係者との交渉を怠っていた、だからクレームが来た、なんてわけはない。交渉して、今年も協力をとりつけていたのに、そのへんのことを何も知らなかった医師会の偉い人が「ダメじゃん」とかいきなり言い出した、というような、かなり荒唐無稽なものだったのではないだろうか、と推測する。

 

 しかもその茨城県医師会が出した、フェスに対する要請は、

 「今後の感染拡大状況に応じて、開催の中止または延期を検討すること」

 「仮に開催する場合であっても、更なる入場制限措置等を講ずるとともに、観客の会場外での行動を含む感染防止対策に万全を期すこと」

 というものだった。

 フェスの開催中止を発表した文章の中で、渋谷陽一総合プロデューサーも詳しく書いていたが、ひとつめは、「『状況に応じて』って、そんな曖昧でふんわりしていて基準がわからないことで『中止または延期を検討しろ』と言われても」という話だ。

 で、ふたつめは「『この数までなら入れていい』っていう数をシビアに選定して、それでOKをとった上でチケットを売った後なんだから、今さら入場制限措置なんかできません。『チケットを持っているけどあなたは入れません』なんてことに、今からするのは道理が通りません。それに『観客の会場外での行動を含む』って、どこまでやればいいってこと? 全員の、家から会場まで? 不可能だよ、そんなの」という話だ。

 このへん、はっきりした基準とかを出して、責任を取りたくない、という気持ちが透けて見える。「うちはクレーム入れましたんで」という事実がほしかっただけ、別に中止にならなくてもその事実が残ればいい、という、うがった見方もできる。それは言いすぎか。

 

 とにかく。要は、無視するか、今すぐ中止を決めるかの二択しかない、かなり荒唐無稽な要請だったわけだ。

 でも、そんな荒唐無稽なものであっても、地元の公的な団体が出した要請である以上、「無視して開催しよう」というわけにはいかないのだなあ、という。

 無視して開催すると、たとえ「一切クラスター出ませんでした」という結果に終わっても(というか、そうなると思うが)、開催前から開催中までは、コロナ初期に開催に踏み切ったK-1の比じゃないくらい、そこらじゅうからボコボコに叩かれるだろう。市や県なども「中止要請があったのに決行したフェスに協力している」ことになるのは、困るだろう。出演アーティストや参加者まで、白い目で見られる可能性もある。

 7月7日(水)放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』で、宇多丸さん(なぜか「さん」を付けたくなる方ですよね)も心配していたが、この件でロッキング・オン社が抱えることになる赤字、2020年夏のROCK IN JAPAN FESTIVALや、同年の年末のCOUNTDOWN JAPANの時とは比較にならない、とんでもない金額だろう。

 それでも止めると決めたのは、開催を押し切った時にダメージを食らうのは、そんなふうに、ロッキング・オン社だけではすまないからだ、と思う。

 

 という事実の重さにぐったりしていたら、7月9日(金)になって、10日(土)・11日(日)の『京都大作戦』の2週目の中止(延期)が発表になった。

 「京都大作戦1週目、7/3(土)、7/4(日)の開催直後から地元の方々より2週目の開催を懸念、不安視する様々な声を頂きました。その内容を真摯に受け止め──」開催を断念した、と、オフィシャルサイトには書かれている。

kyoto-daisakusen.kyoto

 

 また、地元の反対だ……と、さらに重たい気持ちになっていたら、その翌日の7月10日(土)の12:00、A.C.P.C.(一般社団法人コンサートプロモーターズ協会)が、「コロナ禍におけるライブ活動に関する共同声明」を出した。

www.acpc.or.jp

 「私たちは政府の基本的対処方針に基づき、公演開催地各自治体との協議のうえ、感染拡大防止を第一義としてライブの場を広げて来ています。そして政府関係当局や専門家先生方の助言をいただき業界独自のガイドラインも制定し、お客さまの絶大なるご理解ご協力をいただきながら、より安全な形でのライブを行っております。しかしながら政府や各自治体といった行政機関ではないところからライブ中止要請などが出され、その事によってライブを中止せざるを得ない事態が起きています」

 「大切なのはルールを守り、それが行政機関によって認められている営業活動は守られるべきだという事です」

 「私たちは、あらためて政府の対処方針・自治体のルールを守り、行政機関からの中止要請のない限り、ライブ活動を行う権利を有することを確認したいと思います」

 

  要は、さすがにもう黙っていられなくなった、ということだ。このままだと「地元が反対すればイベントは止まる」という実例が、増え続けていくことになるので。「で、その場合、その損失は誰も補填してくれない、泣き寝入りするしかない」という実例も、同じく増え続ける。このままでは、業界が死ぬ。

  『京都大作戦』のことに触れられていないのは、中止が決まる前から、この文章をアップする用意をしていたからだと思う。

 

 僕は、仕事における比重が、非常にライブに偏っているタイプの音楽ライターだが、実はフェスに関しては、そうでもない。こんな言い方をするとあれだけど、フェス全般が、年々、ライターにとって……いや、自分にとってか、仕事にならなくなっている。

 ロッキング・オン社が、ウェブのクイックレポートをやめたとか、雑誌の方もレポのページを簡素化したとか、他の音楽誌もそんなに記事をやらなくなっているとか、単に僕に仕事が来ないだけとか、いろいろ理由はあるが、コロナ禍のけっこう前から、そういう感じになりつつあった。

 フジロックサマソニも、2012年(まだ会社員だった)までは仕事として行ったが、2013年からは普通にチケットを買っているし。2019年に仕事として行ったフェス、香川の『MONSTER baSH』と大阪の『OTODAMA』くらいだったし。

 であってもフェスには行くし、行きたいし、ないと困る。で、フェスに限らずだが、今、各ライブ関係者が、いかに細部まで配慮して、いかに真剣に、感染拡大予防対策に取り組んで、日々ライブを行っているかについても、よく知っているつもりだ。この5月は12本、6月は10本、ライブに足を運んでいるし。

 そのへんのことを、今年の3月に、このブログにも書きました。 

shinjihyogo.hateblo.jp

 以上、なんかまとまらない文章になってしまったが、A.C.P.C.の発表を受けて、これは何か書かなければ、という思ったので、書きました。