兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

コロナ禍がきっかけでライブに行かなくなった、という現象について

 普段はインタビューをするのが仕事だが、自分がインタビューを受けている、という、ちょっとめずらしいテキストが、先日アップされた。

  これ。

 

 渋谷のワインバー、bar bossaの店主であり、小説やコラム等を書く文筆家でもある(もはやそっちの方が有名か)、林伸次さんのcakesの連載。もともと林さんは、『bar bossa林伸次の毎日更新表では書けない話と日記』というメルマガをやっていて(毎日更新で月額300円。僕も買っている)、そもそもは、それ用に依頼を受けたインタビューである。

 そっちはけっこう前に配信されたが、後日、「その短縮バージョンをcakesの連載で使いたい」という話が来たのだった。林さん、以前からそのような「メルマガで書いたやつに手を入れて、後日cakesでもアップ」というパターンが、時々あるのだ。『オールナイトニッポン』でしゃべったネタで、手応えのあったやつをテレビに持って行く、1980年代のビートたけしのようです。

 

 アップされると、さすがcakes、さすが林さんだけあって、いくつもコメントが付いた。で、特に反響が多かったのが、僕が最後に触れている、「新型コロナウィルス禍以降でいちばん心配なこと」についての話だった。

 コロナ禍以前は熱心にライブに通っていたが、最初の緊急事態宣言を経て、ライブが再開されても、以前のようには行かなくなっている人が、けっこうな数、いるのではないか。コロナ禍をきっかけに、「ライブに行く」という生活習慣自体が、なくなっているのではないか。「感染が怖いから」というだけではなくて、「なんとなく行かなくなった」とか、「ライブに行かなくてもけっこう平気な自分に気がついた」とか、そういう感じなのではないか。

 ということに、コロナ禍以降も、ライブの現場に通っている人なら……特に「同じアーティストだけ」「同じサイズの会場だけ」じゃなくて、いろんなアーティストを、いろんなサイズのハコで観ている人なら、気がついていると思う。

 そのアーティスト的に、コロナ禍前なら余裕で満員になっていた会場で、入場者数を半分にしてワンマンをやって、それでも売りきれなかったりすることが、わりとあるのだ。

 

 ということを話したのだが、それに対して、「…私だ」とか「うっ…これになってる…」というリアクションが、数多くあったことに、興味を惹かれたのだった。

 そうか、やっぱり自覚あるのか、みなさん。あるよね、そりゃ。

 ただ、そういう人たちに対して、「ライブの現場に戻って来てください!」と、当事者としては思うが(一応ライブ業界の関係者のつもりなので)、「なんでそうなるのよ!」とは、思わない。

 むしろ、わかる。なんで。他人事みたいに書いているけど、自分も力いっぱいそうだったので。ライブじゃなくて、映画の方で。

 

 2020年4月の、最初の緊急事態宣言の前までは、少なくても週に一回、多い時は三回くらいのペースで映画館に足を運ぶ生活だったが、一度映画館が閉まった後、入場者数半分で再開されてから、行く数が激減した。

 当初は、観たかったやつがことごとく公開延期で、劇場は旧作だらけ、という状態になったのも大きかったが、その後、ちょっとずつ新作の公開が増えていっても、なかなか、以前のような状態には、ならなかった。今度の週末に公開される映画、なんだっけ、と、チェックはするんだけど、腰が上がらない。

 やっと週一回ペースに戻ったのは、2021年の8月頃からだ。1年半も経っている。配信を待つのはイヤ、すぐ観たい、という新作が増えたのもあるだろうが、それだけではなく、そもそも自分が「映画館に行かなきゃ行かないで平気な奴」なので、そこから抜け出すのに時間がかかったのだと思う。

 シネフィルの人なら違うだろうが、僕はそうではない。10代20代の頃は、むしろ人より観ない方だったと思う。つまり「映画館にあんまり行かない生活」の経験もある。その頃に戻っちゃったのだ。

 音楽の方は、自分が「音源とライブで言うとあきらかにライブの方に仕事の比重が偏っている音楽ライター」なもんで、「とにかく観たい」「行かなきゃ」「俺みたいな奴が行かなくてどうする」という強迫観念もあって、足を運び続けたが、自分がこういう職業じゃなくて、ライブは娯楽のために行く生活だったら、行かなくなっていた可能性も、大いにある。

 

 いや、「こういう職業」であっても、そうだ。現に、ライブで顔見知りの同業者にばったり出くわす確率、ものすごく下がった。コロナ禍以降、レーベルや事務所があまり関係者を招待しなくなっているので、その影響も大きいとは思うが、それにしても会わない。行くのはライブレポを書く場合だけ、下手したら来ているライターで、レポとかないのは俺だけ、くらいの勢いになっていた時期もあった。いや、今も、まだ、けっこうそうかも。

 コロナ禍前と変わらないペースで顔を合わせるのは、『Love Music』等を手掛けるフジテレビの三浦淳プロデューサーくらいだ。僕どころではない数、観ていると思う。すごいなあの人。

 

 僕は53歳なので、「世の中みんなこんなにライブに行く生活じゃなかった時代」も、知っている。高校の頃、音楽を聴いている同級生はそれなりにいたが、ライブまで行く人は少なかったし。広島ウッディストリートで、バンド仲間以外の同級生に会ったこと、一回もないし。

 同級生だけじゃなく、近所の人とか、一緒に遊んでくれる大人(ほぼバンドマン)とかも、頻繁にライブに行く人って、ごく少数だった気がする。

 そんな中にあって、僕の母親はレアケースだったようで、小学生の時、当時人気絶頂だった沢田研二の広島公演に行っていた。「普通のおばさんでもコンサート行くのか!」「しかも母が!」「なんてハイカラな!」と驚いたのを憶えています。

 

 話がそれた。とにかく、音楽や映画等のエンタメ産業に、行政も世の中も冷たい、守っちゃくれない、むしろ(ルールを守ってやっていても)やめろと言ってくる。ということは、さんざん味わってきたが、それとは別の恐怖が、この問題なのだった。

 行政等の「外側の人」じゃなくて、「内側の人」、つまり「エンタメありで生活してきた人」が、そうじゃなくなるのって、わりと簡単なんだな、自分も含めて。何十年もかけてできあがってきた「娯楽で何かを観に行く生活」って、すぐ、その何十年前に戻るんだな。ということに、とても、怖さを感じるのでした。

 

 あ、ネットフリックス等の加入者は爆発的に増えたようだし、映画館へ行かない=映画を観なくなっている、という話ではないことは、わかっています。もっとこう、「興行全般」という話です。スポーツとかも、そうだろうな……と書いて、思い出した。コロナ禍以降、プロレス、全然観に行ってないわ、そういえば。やばい。