兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

リモート・インタビューの話  

 「民生さんがおまえに敬語使うとるんが気持ち悪い」

 

 というLINEが、リアルサウンド奥田民生のインタビュー(https://realsound.jp/2020/06/post-570533.html)を読んだ、地元の友人から届いた。

 高校の同級生で、当時僕とバンドをやっていて、奥田民生がアルバイトしていた広島駅そばのスタジオ、スズヤに一緒に通っていた、つまりOTとも面識がある奴なので、よけいにそう思ったのだろうが、それ、言われるまでまったく気がつかなかった。読み直して「ほんとだ!」ってなりました。

 

 なんでそうなったのか。リモートでインタビューを行ったからだと思う。

 そのインタビューの時のPCの画面、僕とOTとリアルサウンドの編集者の、3人が映っている状態だった。なので、質問をするのは僕だが、OTがしゃべる時は、ふたりに向かって答える、という具合になる。だから、敬語になったんだと思う。

 

 リモートでのインタビュー、コロナ禍以降、あたりまえになった。コロナ禍が収まっても、それが主流になって、対面のインタビューは廃れていくんじゃないか、と懸念している同業者もいる。確かに、そういう風潮を肌で感じることもある。そうなったらたまったもんじゃない、と、憤っている知人もいる。

 が、僕は、そんなにストレートに憤れないところが、正直ある。長い尺を必要とするインタビューや、込み入った話を訊きたい時は、「リモートだとやりにくいです、対面じゃなきゃ困ります」と思うが、「リモートでOKです」という場合もあるので。

 たとえば、雑誌でいうと、ボリュームは1ページで毎回同じ趣旨のコーナー、尺は30分、というインタビュー、実際に先日あったのだが、記事として仕上げ終わった時、「これ、リモートで充分だったな」と思った。

 逆に、最初から2時間を超えることがわかっている、訊かなきゃいけないことがいっぱいあるインタビューの時は、「これ、なんとか対面でできませんかね?」と相談し、「広い部屋で、遠く離れて行う」ということになった。声がよく通る相手で助かった。そのインタビュー、結局3時間半超えになって、対面にしてよかった、と、つくづく思った。

 で、その中間というか、「リモートでやったけど、対面ならもっと盛り上がったのに」というケースもあった。今のところはないけど、その逆で、「対面でやったけど、これリモートで充分だったわ」というものも、今後、出てくるかもしれない。

 

 あたりまえだが、インタビューするのに、指定された場所まで出向かなくていい、自宅でできる、というのは、メリットも大きい。たとえば、13時〜14時でインタビューが入っていて、同じ日の15時で別のインタビューの依頼があったら、これまでなら断っていた。スムーズにいけば移動込みで間に合うけど、万が一、13時の人が遅刻してスタートが押したりすると、次の取材相手を待たせることになるかもしれない。それは絶対ダメなので、そういうギリギリのスケジュールは、組まない。

 ということにしていたんだけど、リモートなら引き受けられる。せこいことを言うと、交通費もかからない(インタビューもライブも、地方出張以外は交通費出ないのが普通なのです)。あと、スケジュールをきいて、「すみません、その日、地方に行ってまして」という時も、リモートなら不可能じゃなくなる、という場合もあるし。

 

 インタビューを受ける側もそうですよね。ラクですよね。特に相手が地方のラジオ局とかだったら、キャンペーンに行かなくてすむ。来てくださいよ! と、メディア側は思うだろうが、「スケジュール的に行けないからインタビューできない」というのと、「行けないけどリモートならインタビューできる」というのだったら、どっちがいいですか? と言われたら、後者を選ばざるを得ないだろうし。

 要は、それでも対面でやりたいなら、先方に「対面でやった意味があった」と思わせる内容にしないといけない、ということだ。先方にだけじゃない、読者にもですね。要は、よりシビアになった、という話だ。

 

 そういえば、フルカワユタカには、LINEでインタビューした。BARKSで彼が連載しているコラムがとてもおもしろくて、「書ける人だなあ」と前から思っていたのと、自分とは古くからの付き合いなので、画面越しで一問一答でやるよりも、LINEでポンポン言葉を交わした方が、リラックスした感じになって本音が出そうだな、と思って、そう提案したのだった。

 こちらです。https://www.diskgarage.com/digaonline/interview/144427

 

 それから、くるり岸田繁の、ニュー・アルバム『thaw』に関するインタビューは、往復書簡という形で行った。編集部からリモート・インタビューでオファーしたのだが、くるりサイドから、メールでのインタビューがいい、という希望があって、文章で質問を送って文章で返事をもらうことになった。

 本人の希望なのか、ビクターのスタッフ等の発案だったのか、そのへんはわからなかったが、戻ってきた回答を読んで、「文面でよかった!」と納得した。僕の質問に口頭で答えていたら、こういう内容にはならなかったであろうことが、読めばあきらかなので。

 こちらです。https://realsound.jp/2020/06/post-565781.html

 

 にしてもOT、俺のインタビューに敬語で答えてるのって今回だけなのかな、最近普通に対面でインタビューした時はどうだったっけ、と思い、昨年11月に出たユニコーン『服部』の単行本(https://www.rittor-music.co.jp/news/detail/16478/)の、彼のインタビューを見てみた。

 発言の語尾、敬語じゃないところと、敬語のところが、入り混じっていた。

 このインタビュー、編集者も同席していて、彼が質問している箇所もちょっとある。その彼の質問に対しては語尾が敬語、僕の質問に対しては語尾が敬語じゃない、という色分けに、おおむね、なっていたのだった。

 これも、今の今まで気がつかなかった。OTの、なんというか、几帳面さのようなものを感じます。