兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

『カムカムエヴリバディ』の、ジョーのジストニア発症について

 うわ、ジョーをジストニアにするか!? 金子隆博が音楽担当のドラマで!

 

 と、びっくりした。NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の話である。ササプロのコンテストで優勝し、レコーディングとコンサートを行うために東京へ行ったジョー(オダギリジョー)だが、なぜか突然トランペットが吹けなくなってしまい、レコーディングもコンサートも中止、事務所をクビになって、失意のうちに大阪に帰って来る。

 で、なんやかんやあって、るい(深津絵里)と結婚して京都へ移り住み、ふたりで回転焼き屋を始める──という、1月26日(水)放送の第60話まで観て、この「吹けなくなった件」はいったん終わり、と判断し、これを書いているわけです。

 なんで書いているのかというと、このドラマを観ている知人が、「ジョーの心の不調で演奏ができない、は、ちょっと説得力がないなあと思う」と書いていたので、ああそうか、そういうふうに思う人もいるか、そりゃいるよね、じゃあ納得している側として、なんか書きたいな、と思ったからなのだった。

 

 ジョーのように演奏ができなくなる病気は、職業性ジストニアといって、ミュージシャン界隈・バンド界隈では、よく知られている。なので、その界隈に詳しい方は、ここから先は「知ってるよ」ってことばかりだと思います。

 まず、ドラマの中で「ジストニア」と呼ばれていないのは、当時はまだそういう病気があることが認知されておらず、その名称も知られていなかったからだ、と思う。

 現に、僕がそういう病気があるということを知ったのも、わりと最近で、2001年頃だった。当時、GRAPEVINEのリーダーの西原誠がベースを弾けなくなり、一時バンドを離脱して療養、2002年に復帰したが、結局年内に脱退した。という件で、ジストニアという病気があることを知った。

 腕の筋力や目や耳など、肉体的に特に異状はないのに、楽器を弾く・叩く・吹く時だけ、身体が言うことをきいてくれなくなってしまう、という。

 あ、楽器だけじゃない、歌の場合もある。あと、作家やスポーツ選手なども、あるそうです。スポーツ選手の場合、「イップス」と呼ばれるあれだ。同じ動作をくり返す職業の人に、多いという。

 で、非常に難しい病気で、今でも、「こうすれば治る」という治療法は、確立されていない。

 

 GRAPEVINEの件以降も、何年かに一回、そういうケースが耳に入ってきた。

 たとえば、氣志團のドラマー、白鳥雪之丞スガシカオのバンド等で弾いていたギタリスト、田中義人。RADWIMPSのドラマーの山口智史。最近では[Alexandros]のドラム、庄村聡泰など。

 で、『カムカムエヴリバディ』の音楽を担当している金子隆博こと、米米CLUBフラッシュ金子も、そうなのだ。カールスモーキー石井の妹さん=シュークリームシュのMINAKOと結婚した、最近ではNHK『うたコン』のオーケストラの指揮などでも目にする(最初はびっくりしました)、作曲家・プロデューサー・アレンジャーの、この方も、ジストニアを患ったことで……いや、それだけが理由じゃなくて、きっと元々そういう素養もあったんだろうけど、サックスのプレイヤーから、プロデューサー等の仕事に、軸足を移した人なのだった。で、それで大成功しているのだった。

 

 脚本の藤本有紀、そのことを知っていて、ジョーをジストニアにしたのか。それとも、知らずに書いたのか。あるいは、書いたあとで、「え、音楽、金子さんなの? どうしよう?」みたいなことにはならなかったのか。いずれにせよ、すごい。

 

 なので、最初に書いた、「ジョーの心の不調で演奏ができない、はちょっと説得力がないなあと思う」とは、僕は思わなくて、むしろ「大昔が舞台のドラマなのに、後の時代まで病気として認知されないやつをも取り入れている」というふうに、肯定的に受け止めています。

 その知人に「だからあんたも説得力がないなんて言うな」とは思わないけど。そんなの、その人の自由だし。

 あ、もし難癖つけるなら、ジストニアは、ある程度キャリアを積んだミュージシャンが罹るケースが多くて、デビュー前の新人がいきなり罹る、という例は、あんまりきいたことがない。ということぐらいでしょうか。僕が知らないだけ、という可能性も、大いにあるが。

 

 金子隆博が、『カムカムエヴリバディ』のことや、ジストニアのことを語っているインタビューがあったので、貼っておきます。

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