兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

フジロックに行かない、という人体実験

 を、自分がしていることに、当日=2022年の開催初日、7月29日金曜日を迎えてから、気がついた。

 つまり、当日を迎えるまでは、気がついていなかった。ものすごい一大決心をして、行かないことを選んだ、というつもりは、全然なかったので。だって、昔も、行かなかった年、あったし。

 と思っていたのだが。よくよく思い出してみたら、「行けたのに行かなかった」という選択をしたのは、1997年の第1回だけなのだった。その時は、2日目がサニーデイ・サービス初の日比谷野音ワンマンと当たっていて、「あのフジロックとかいうのに、行く気じゃないでしょうね? 僕だって行きたいのに、がまんするんですから」と曽我部恵一に言われて、サニーデイを選んだ。ちなみに1日目は、奥田民生渋谷公会堂に行った、と記憶している。

 

 で、それ以降は、2000年代の半ば、ロッキング・オン社のフェスの部署にいて、フジの1週間前から会場設営が始まってひたちなかに詰めていた、つまり己の業務として物理的に行けなかった年が、2~3回くらいあったが、考えてみたら、それ以外は、なんやかんやで毎年行っていたのだった。3日間じゃなくて、金土だけで帰った年もあったが。

 記憶をさらうと、1998年から2012年までは、間に何度かチケットを買って行った年はあったが、基本的には仕事(取材)として、関係者招待で行っていた。いちばん仕事をしたのは2000年で、当時自分がいたBUZZという雑誌のフジロック特集で、3日間で20本くらい、出演アーティストのインタビューを仕込んだ。

 で、2013年以降は、完全に仕事ではなくなって、普通にチケットを買って行っている。

 「出演者が国内アーティストのみ」「アルコール摂取全面NG」「こんな時なのにやるのかと世間から非難殺到」だった去年=2021年も、行った。そんな年だからむしろ行って、どんなもんだったか体験しておかなくては、と思ったのと、3日目の大トリが電気グルーヴ、有観客ではあの事件後一発目のライブなので、行かないわけにはいかない、という理由で。

 でも、じゃあ3日目だけ行くのもありかな、と一瞬思ったが、初日に坂本慎太郎が出ることを知り、その選択肢も消えた。

 で、現場に行ったら、毎年出くわす同業者(ライター)などの音楽業界関係者、誰もいなかった。いつもなら、ちょっと歩くたびに誰かにばったり会うが、ほんとに、誰にも会わない。

 で、ツイッターで、みなさんYouTubeで中継を観ていることを知って「え、みんな家なの?」「で、来た奴、こんなに世間からひんしゅく買ってるの?」と、驚いたものです。

 

 そんな2021年すら行ったのに、なぜ今年2022年は、行くのをやめたのか、自分は。考えても、大した理由が出てこない。

 自分にとって「このバンドが出るなら絶対行かなきゃ」という決め手がなかった、とか、チケット代交通費宿泊費がシャレにならないとか、そういうのはある。あるが、2000年代や2010年代に、そう言って行くのをやめる人たちに、「誰かを目当てに行くもんじゃないじゃん、フジロックって」とか、「そうよね、余裕で海外旅行に行けるぐらいカネかかるよね。じゃあ海外に行ったら?」と、自分が思っていたような理由だ、いずれも。

 じゃあなぜでしょう、今年は行かないと決めたのは。わからないが、「夏は絶対にフジロックに行く、という生活習慣をやめてみたら自分がどうなるのか」という、言わば、人体実験をやってみたかったのかもしれない。と、今年のフジが2日終わった現時点で、思っている。

 

 まず2週間ぐらい前から、イープラスから毎日送られてくるメールや、PCを開く度に表示されるフジロックの広告が、やたらと気になり始める(それ以前からしょっちゅう目にしていたのに)。「来週だ、楽しみ」とか「今年はこれを観よう」みたいなツイートも、観るたびいちいち「うっ」となる。

 そういえば友達が、子供たちをフジロック・デビューさせるので初日だけクルマで行く、あとひとり乗れるのでよかったら行きます? って言ってくれてたな……いやいや、1日行ったら帰ってこれないだろ俺、じゃああとの2日間どうすんのよ、宿とか交通とか(そういうの、行きあたりばったりでなんとかなるでしょ、という人もいるが、私はきっちり決めておかないと不安でダメなタイプです)。と思うと、その話に乗る気にもなれない。

 とか思っている間に、初日を迎えた。

 

2022年7月29日(金)

 まず、ツイッターやインスタグラム等を見るのを、極力やめた。いるじゃないですか、何かライブを観るたびにうれしそうにツイートする迷惑なバカが。去年までの俺みたいな奴。そういうのを観てしまうと、心をかき乱されること必至なので。

 ただ、そうやってSNSを避けても、わざわざメールやLINEで現場の写真やなんかを送りつけてくる知人もいる。中には自分も現場にはおらず、ニューヨークで配信を観ているくせに、「ねえ観てる?」「観なよ」「なんで観ないの?」などと何度もDMを飛ばしてくる、ロッキング・オン社ニューヨーク特派員中村明美のような奴もいるので、まったくもって油断できない。

 また、自分にとっては、YouTubeで自宅で観れる初めてのフジロックが今年、ということになるのだが(配信が始まって以降、現場に行かなかった年がないので)、それも無視することにした。

 涼しい家で観れて、ラクで楽しくていいわ、配信で充分じゃん、というふうに、自分がなれるとは思えない。「観るなら行けよ」と自分で自分に思うだろうし、観てしまったら最後「こんなに良かったのか! ああっ、生で観たかった! 行けばよかった! なんで家にいるんだあ俺はあああ!!」ってメンタルが錯乱する、としか思えない。

 というわけで、この日はそのように、SNSYouTubeも、触らずに過ごすことに、成功した。夜は下北沢シャングリラに、空想委員会のツアーファイナルを観に行った。すごくいいライブだった。終演後に挨拶に行ったら、ボーカル&ギターの三浦くんとギターの佐々木くんが、それぞれ、「来てくれたんですね、フジロックを蹴って」と言ってくれた。

 いや、すみません、そのためにフジを蹴ったわけじゃないです、正直。と、心で思った。ただし、もしフジに行っていて、今日ここに来れなかったら、代わりにどこか地方まで空想委員会のツアーを観に行きましたよ、俺は。とも思った。

 

2022年7月30日(土)

 この日は、アナログフィッシュビルボード横浜のライブを観に行くつもりだった。昼夜2公演、なんだったら両方観てくださいよ、と、ボーカル&ベースの佐々木健太郎は言ってくれた。が、メンバーのコロナ陽性で延期。うわあ。何してくれてやがんだコロナ。困った。

 それでもとにかくなんかしよう、と、家を出て、朝兼昼メシを食って、電車に乗って買い物に行った。どこの街にも普通に人があふれているのが、「今日、フジロックなのに……」と、不思議に思える(あたりまえだ)。で、自分がここにいることも、さらに不思議に思える(もっとあたりまえだ。行かなかったからだ、おまえが)。

 で、あれこれ買って、夕方、家に帰ったところで、フジのタイムテーブルがちらっと目に入る。ホワイトステージでGLIM SPANKYが始まるところだ。あ、俺、近々ニューアルバムのインタビューの仕事、入ってる。だったら仕事的に絶対観た方がいいじゃん、「観れない」ならしょうがないけど、「あえて観ない」は、おかしいじゃん……と、つい観てしまった。前半のMCで、松尾レミが空を指差すと虹が出ている、という感動的なライブだった。

 で、結局、そのままずーっと観ました。その日の生中継が終わって、昼間のライブの再放送まで。

 GLIM SPANKY→FOALS中納良恵のザッピング→DINOSAUR JR.→JACK WHITE→CorneliusDINOSAUR JR.、何度も生でライブを観ているけど、こんなに細部に至るまで真剣に観たのは、川崎クラブチッタの初来日以来だったかもしれない。

 で。「配信でも観れてよかった」といううれしさ0.5割、「なんでここにいないんだ俺はああ!!」という己への怒り9.5割の時間でした、終始。

 特に、それがピークに達したのが、ホワイトのトリ、Corneliusが、後半で「環境と心理」をやった時。

 この曲、昨年2021年の初日(8月20日金曜日)のホワイトのトリで、現在のTESTSET=この時はMETAFIVEの特別編成の4人(砂原良徳×LEO今井、サポートで白根賢一と永井聖一)が、ラストにやったのだ。

 この曲を終えて、LEO今井は「緊急事態中の、METAFIVEでした」と言って、ステージを下りた。しびれた。

 それを生で観たのに、今年のCorneliusのこれを配信で観てるって、何をやってるんだ俺はああああ!!!!! と、頭をかきむしりたくなったのでした。

 

2022年7月31日(日)

 これを書いている現在はまもなく11時、グリーンとホワイトの1アクト目が始まる時刻。

 今日の予定は、自分の中での「ロック・バンドのライブの最強コンテンツ」=ピーズのワンマンを観に、新宿紅布に行く。18時から。

 ……待てよ。メンバーの誰かがコロナでキャンセルとか、ないだろうな。と、今、ピーズの公式ツイッターを見たが、大丈夫だった。今のところ、特にそういう告知はない。

 外はいい天気、猛暑。私の今日は、どんな日になるでしょう。