兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

GLIM SPANKYは革命を起こしたのかもしれない

   と、2018年5月12日の、GLIM SPANKY初の日本武道館ワンマンに行って思った。すばらしいライブだった。で、なんとも感慨深い気持ちに包まれながら、全25曲のライブを堪能させていただいた。

 

  ただし、その感慨、「遂にここまで辿り着いたか、この人たち」みたいなことではない。GLIM SPANKY、武道館くらい余裕でできるようになるだろうと思っていたし。むしろ、「武道館すっ飛ばして横浜アリーナとか幕張メッセとかに行っちゃうかも」とすら思っていた。ある部分はオールド・ウェイヴだけど、ある部分は普通に今の若者たちである松尾レミと亀本寛貴、ふたりとも日本武道館というハコに対する思い入れとか、特にない様子だったし(という印象を、最初にインタビューした時に受けました)。

  僕が感慨を覚えたのは、武道館を埋めたお客さんに対して、なのだった。

 

  2014年にGLIM SPANKYがデビューした時、まっ先に飛びついて絶賛した著名人は、みうらじゅんだった。次いでリリー・フランキー。その後もあちこちから高い評価を得ていき、2015年12月には桑田佳祐TOKYO FMの自身の番組『桑田佳祐やさしい夜遊び』で「2015年邦楽シングルベスト20」の2位にGLIM SPANKYの「ほめろよ」を選出する、という事態にまで至る。

  ちなみに、音楽雑誌ロッキング・オン・ジャパン誌で最初に絶賛したのは、洋楽誌邦楽誌総編集長の山崎洋一郎(1962年生まれ)だった。もうひとつちなみに、僕(1968年生まれ)が最初にGLIM SPANKYをインタビューしたメディアは、週刊SPA! だった。おっさんが読む週刊誌で、その中でもおっさん寄りのライターがインタビューした、ということですね。

 

  このように、新人アーティストがおっさんから支持される、というのは、「耳が超えたファンに認められる」みたいな捉え方もできるけど、必ずしも全面的にいいことだとは限らない場合もある。と、僕は経験上知っている。30代40代の音楽業界人や大人のロック・ファンは大喜びしたが、若い層にまでは支持が広がっていきませんでした、みたいな具体例が、これまでにいくつかあったので。

  つまり、大人にばかり支持されていると、いつか頭打ちになるのではないか? 若年層のファンも取り込んでいかないと、たとえば「O-EASTまでは満員だったけどZepp Tokyoからキツくなる」みたいな事態になるのではないか? という心配が、僕にはあったのでした。

  心配なあまり、リアルサウンドのインタビューで、ご本人たちにそういう話をしたこともある(こちらです。http://realsound.jp/2016/07/post-8141.html )。

  もちろん、そんなことを言われても困るばかりなのだった、おふたり的には。失礼しました。

 

  その僕の不安は、ワンマン・ライブに行くと、さらに裏付けられることになる。やはりというか予想以上というか、驚くほど平均年齢が高く、男が多い。長髪率や革ジャン率、洋楽バンドのTシャツ着用率も高い。

  やっぱりこれ、いつか頭打ちになる時が来るんじゃないか? と、心配しながら、赤坂BLITZ、新木場スタジオコースト、と、規模が大きくなっていくワンマンを追っていた。

  その認識が変わったのは、2017年6月の、初の日比谷野音ワンマンだった。3000人オーバーに拡大したキャパがソールドアウトしたこの野音でも、その客層の状態、変わらなかったのだ。

  あれ? この規模でも大丈夫なんだ? じゃあ、もしかして、このままどこまででも行けるってこと? 若年層にリーチしなくても、新たなおっさんを増やしながら、規模拡大しつつ進んで行くのが可能っていうこと?

 

  可能、っていうことなのだ、どうやら。という事実を証明したのが、この日本武道館だった、というわけです。

  「Charのワンマンか?」「昔の大物外タレか? チープ・トリックとかの」などと言いたくなるような空気だった、ロビーも客席も。

  いや、さっき書いた「若年層にリーチしなくても」というのは言い過ぎでした。若い世代のファンや、女の子のファンも、以前より確実に増えているのが目に見えてわかる。フェスに出たりした効果だと思う。ただ、そっちも増えているんだけど、それによっておっさんファンが減ってはいない、むしろキャパ拡大した分おっさんも増えているので、薄まった感じがしないのだった。若いファンが増え始めたことによっておっさんファンの増える勢いが下がってはいない、ということだ。

 

  日比谷野音の時も頭によぎったが、この日、確信に変わった。GLIM SPANKYのこのファン層、ここまで来ると、もう「現象」と呼んでいいのではないか。10代20代をつかまないことにはブレイクが不可能だった、日本のロック・シーンにおける革命なのではないか。

  これで、若いファンの方は本当に一切増えていない、というのであれば、さすがにちょっと不安になるかもしれないが、先に書いたようにそんなことない、そっちはそっちで増えているからいいや、というのもあります。

  4月28日にARABAKI ROCK FEST.でもGLIM SPANKYを観たが、その時の集客もすごかったし。私、まったくテントに入れなくて、外で聴きました。

 

  なぜGLIM SPANKYの音楽がそうなのか、については、正直、よくわからない。BUMP OF CHICKENでロックに目覚めた松尾レミと、GLAYがきっかけでギターを持った亀本寛貴のユニットが作る音楽が、なぜそんな現象を起こしているのか、については。

  そもそも、彼女たちがルーツにしている60年代の英米のロックって、彼女たちのファンであるおっさん連中にとっても、リアルタイムではない。それこそ渋谷陽一くらいの年齢(1951年生まれで67歳)じゃないと、リアルタイムでは知らないだろう。

  後追いで古いロックを聴いています、そういうのが大好きです、というのはあるかもしれないが、でも、たとえば今年50歳の僕だって、あたりまえにそういうルーツ・ロックを聴いてきたけど、同時に、その時代時代で、テクノやハウスやヒップホップもあたりまえに聴いてきた。GLIMのファンだってそうだろう。つまり、昔っぽいロックだから昔を生きてきたおじさんたちが飛びつく、というような簡単な話ではない、ということだ。

  60年代・70年代の洋楽に近い音を出すバンド、昔もいたし、今もいるし、きっとこの先も出て来るだろうが、その人たちがGLIM SPANKYのような支持の集め方をして来たか・して行くか、というと、そうはならないんじゃないか、とも思う。

 

  とにかく。言わば「日本のロック・バンドの、新しいファンの獲得のしかた」のモデルケースが、こんなふうに増えていくのは、いいことだと思う。

  GLIM SPANKY、何年か後には、ローリング・ストーンズの来日公演とおんなじ感じの客席になった東京ドームで、ワンマンをやっているかもしれない。

  逆に、ここから若いファンの増加率が一気に巻き返して、普通の客席になる可能性もある。どちらにしても、楽しみです。