フェスと体力の話
5月27日、東京・新木場若洲公園の『METROPOLITAN ROCK FESTIVAL 2018』、通称『METROCK2018』の2日目に行った。仕事で行ったんだけど、ライブを観てレポを書くとかは一切ないという、自分的にちょっとめずらしい参加のしかたでした。
その仕事の事情で、男性ひとり女性ひとりと、終日一緒に過ごした。ふたりともフェスは初体験だったそうだが、開演30分前の11時頃に着いて、3つのステージを移動しながらいくつかライブを観終わった頃のこと。
「体力が残り3割を切りました……」
「私もです……ちょっと休みながらにした方がいいかもです」
と、ふたりが言う。
びっくりした。いやいやいや、まだ14時じゃん。ちょっと歩いただけじゃん。確かに5月にしては暑い日だけど、真夏のフェスに比べたら……あ、そうか、この人たち、その経験はないのか。でも、『METROCK』って端から端まで歩いても15分くらいの、こぢんまりしたフェスなのに。
男性は31歳、女性はそのちょっと下。若いじゃないか。ふたりとも「普段デスクに向かいっぱなしの仕事で、ほんとに体力がないんです」と言うが、いや、俺だってそうだよ……と、思ってから、気がついた。
週に何度も2時間とか2時間半とか立ちっぱなしでライブを観て、フェスの季節になると毎週末のように1日20キロとか歩いている僕のような奴は、決して「俺だってそうだよ」ではないことに。
そう考えれば、音楽ライターというのは、たとえば映画や演劇なんかの他ジャンルのライターに比べて、体力が必要な職種なのかもしれない。音源とライブの比重が完全に入れ替わった、ここ10年くらいで特にそうなったとも言える。
あと、前から僕が気になっていたこととして、「音楽ライター、意外とフェスに行かない」というのがあった。レポを書くとかで、フェスに行く=そのまま仕事になることが、世間のフェスの多さのわりに、実は少なかったりする。という事実はあるが、仕事にならなくても行く僕からすると、「行きたくならないの?」「気にならないの?」と不思議に思う。
で、フェスが嫌い、あるいは興味ない、だから行かない、というならわかるが、そんなふうでもないようなのだ、みなさん。出演アーティストが発表になるとツイートで感想を述べたりとか、あそこのフェスは嫌だとか、ネットのフェスの即レポって意味あるのか? とか、フェス関連について何か言いたくはあるようなのですね。でも、現場にはそんなに行かない、行くとしても好きなバンドが来日する年だけ、というような。
普通の音楽ファンならわかる。仕事が忙しくて行けないとか、子供が小さくて無理とか、当然あるだろう。でも、我々、普通の音楽ファンとは言えないし。音楽の仕事で食ってるんだから。
あれ、なんでだろうね? と、ライブもフェスも僕以上に行きまくっている、後輩のライター(と言っても余裕で40オーバー)に訊いたら、彼は簡潔にこう答えた。
「しんどいからですよ」
え? だって40代半ばのきみや、今年50の俺はがんがん行くじゃん。
「だから、僕らの方が異常なんですよ。僕ら、体力ある方なんですよ。兵庫さん、毎週何十キロもバカみたいに走ってるじゃないですか。僕もバスケめちゃめちゃやってるし」
誰がバカみたいだ。とイラッとしつつも、思わず納得した。そういえば「よくフェスに行く」側のライターは、ほぼ例外なく、我々と同じように普段から走ったりしている人たちだ。
「とにかく、自分が標準だと思わない方がいいですよ。真夏のフェスって、興味あっても行くのをためらう程度にはしんどいものなんですよ、普通は」と、彼は言うのだった。
確かに。普段生活していて、1日に20キロ以上歩くことなんて、まずないですよね。
そういえば昔、北海道のRISING SUN ROCK FESTIVALに初めて行った時、取れた駐車場が会場から遠目の場所だったのと、テント券がいちばん奥のエリアだったのが重なって、「レンタカーを下りて入場ゲートをくぐって自分たちのテントの場所まで歩く」が、「渋谷から三軒茶屋まで歩く」ぐらい時間がかかった。
夜中に連れのひとりが「クルマに忘れ物したから取ってくる」とテントを出て行って、いつまで経っても帰って来なくて、ずいぶん経ってからやっと戻って来たので、「どこ行ってたの?」と訊いたら「クルマまで行って戻って来ただけだよ!」とキレられたのを憶えています。
で、これ、もちろんライターに限った話ではないわけだ。つまり、普通にあちこちの野外フェスに足を運んでいる30代や40代や50代のあなたは、そういうのに興味のない同年代の職場の同僚と比べると、異様に体力がある人だということです。
だからなんだ。と言われれば、「いいえなんでもありません」と答えるほかないが。
ちなみに、『METROCK』であっという間にバテた若いおふたりは、ブースで無料配布されていたモンスターエナジーと、それぞれのアクトのライブのすばらしさに助けられて、結局、大トリのサカナクションが終わるまで、フェスを満喫することができました。「モンスターエナジー、効きました!」と何度も言っていた。