2015年8月13日(木)星野源@日本武道館『ひとりエッジ』を観て感じたこと
『星野 源 ひとりエッジ』と銘打たれた、つまりひとりっきりで(なので、基本的に弾き語りで)ライヴをやることがテーマの日本武道館2デイズの2日目。2014年12月16日・17日の横浜アリーナ2デイズの1日目は、ほぼひとりで弾き語りだったし、それ以前にも……2011年とかそれくらいだったと思うが、渋谷パルコ劇場や恵比寿のリキッドルームで、『部屋』というタイトルで、自分の部屋で歌うのと同じ感じでひとりでやる、というコンセプトのライヴを行っていたので、ひとりで長丁場のライヴをやるのは初めてではないし、ひとりで大会場でやるのも初めてではない。
にもかかわらず、これまで観たことのないような、とても特別な経験だった。
アリーナまんなかにセンター・ステージ、それを360度囲む形でアリーナと1Fスタンドと2Fスタンドはびっしり埋まっている。本人のMC。によると、満員御礼、13,000人。“バイト”で始まり、アンコールをニセ明の“君は薔薇より美しい”、そして “SUN”でしめくくった全23曲、2時間50分ちょっと。
ざっくり言うと4部構成になっていて、まず1部は普段着っぽい格好で出てきて、立ってギターを弾きながら歌う、というパート。
2部は前述の『部屋』コーナー形式。自室を模した畳敷きのセットで、ちゃぶ台に向かってアグラをあき、ギターを弾きながら歌う(そういえば過去の「部屋」の時はいつもパーカー姿でしたが、今回もこのコーナーではパーカーに着替えていました)。
で、3部は、スーツ姿で登場し、弾き語りで歌ったり、隣にセットされたドラムを叩いてその音をループさせ、それに合わせてギターを弾きながら歌い、そこに途中からストリングス等のバック・トラックがかぶさってきたりするコーナーでした。
で、4部はアンコール。「ニセ明にこの武道館への出演をオファーするもゴネてなかなかOKと言わない」という内容のVTRが、1部と2部の間、2部と3部の間に流れた末、ニセ明が登場、”君は薔薇より美しい”を熱唱。そしてステージの上で早着替えして星野 源に戻り、”SUN”でしめくくる、というエンディングでした。
フェスの時は「自分対いっぱい、自分対みんな」みたいな感じになるけど、今日は一対一だと思う。そういう感じがする。だから逆にみんなで同じことやってみるのもいいんじゃない?──というようなことを前半のMCで言って、オーディエンスに手拍子をうながしたり、同じ動きで踊らせたりしていた。で、後半、別の話をしている時に、オーディエンスに向かって「俺とあなたたちの」ではなく「俺とあなたの」と自然に口にした。この人、本気で、心の底から「一対一だ」と思っているんだなあ、と実感した。
どんなに大勢が集まっても、どんなに楽しくても、どんなに一緒にシンガロングや手拍子で盛り上がっても、そしてどんなに「僕とあなた」をテーマにしていても──いや、だから「僕とあなた」をテーマにしているのだとも言えるが、星野 源の歌の根底には、常に「人はひとりである」という前提がどっしりと腰を下ろしている。「終わらないものなどない」ということも、「自由と孤独は同義語である」ということも、「人はいつか死ぬ、いや、いつかじゃなくてわりとすぐ死んだりする」ということも、「人は必ず誰かに取り残されるし、誰かを取り残すことになる」ということも、同様に存在している。
人はひとりじゃない、ということを確認するための音楽ではなく、この星野 源という人はこんなふうに「ひとり」を生きているんだ、ということを確認し、じゃあ自分はどんなふうに「ひとり」を生きようか、と考えるための場として、星野 源のライヴはある。100%すべてがそうだとは言えないが、そういう側面もある、と僕は思う。
特にそれ、2部の「部屋」のコーナーで、顕著に表れていた気がした。
途中、「アパートのお隣さん」という設定でPerfumeのかしゆかが登場(1日目は神木隆之介だったそうです)、星野くんの向かいに座り、しばしトークしたあと、歌が始まる。
曲は“老夫婦”。星野くんに一緒に歌うよううながされたかしゆか、最初だけ一瞬口ずさむが、すぐに歌うのをやめ、あとは持参したアイスを食べながら、自分の正面で、至近距離で歌う星野くんをニコニコと観ているのみ。後半、歌が「♪ラララーラーララー」となったあたりで星野くん、かしゆかに、「一緒に歌って、セイ!」と何度も呼びかけるも、かしゆか、ニコニコと拒否、そのまま終わる。曲が“老夫婦”だったことも、相手がかしゆかだったことも、その光景を360度から13,000人が観ているというシチュエーションも含めて、何かもう、この瞬間が、すべてを表している気がした。というか、真実を表している気さえした。歌わなかったかしゆか、偉い。
なお、星野くんのMCによると、前日の神木隆之介は、ものすごくうろたえながら歌ったそうで、それはそれで偉いと思いました。朗々と大きな声で合唱なんかされたらだいなしだったのでは、という気がします、なんとなく。