「弾き語り」の問題
「弾き語り」って、なんとかならないだろうか。
何が。「弾き語り」という言葉が、という話です。僕も頻繁に使うんだけど、よく使うがゆえに、「事実に則してないよなあ」「違和感あるよなあ」という思いが、拭えないのだった。
基本、ひとりもしくはふたりくらいで、アコースティック・ギターを弾きながら歌うライブのことを指す言葉、という解釈を僕はしている。おそらく昔のフォークの人たちが、あんまり抑揚のないメロディで、語るように歌うことが多かったので(ボブ・ディランなどがわかりやすい例ですね)、そう呼ぶようになったのだと思う。が、それ、ヒップホップとかが出て来るよりはるか昔の時代の話であって……いや、ヒップホップも「語り」と呼ぶのは違うな。TOKYO No.1 SOUL SETのBIKKEとか、THA BLUE HERBのBOSS THE MCとか、MOROHAのアフロみたいなラップだったら「語り」と呼んでもセーフな気はするけど。
広辞苑で引いてみた。
ひき-がたり【弾き語り】
①同一人物が浄瑠璃などを三味線を弾きながら語ること。
②ピアノ・ギターなどを弾きながら歌うこと。
だそうです。ちょっと目からウロコでした。
①は、そうか、ロックとかフォークよりもはるか昔、浄瑠璃とかの時代から使われている言葉だったのね、という意味で。浄瑠璃だったら「歌う」よりも「語る」がしっくりくるのもわかる。
そして②は、こういう意味合いなのであれば、エレキ・ギターやピアノなどを弾きながら歌っていれば、たとえバンドを従えていても「弾き語り」ってことになるのね、という意味で。じゃあ、チバユウスケも、ヤマサキ セイヤも、こやまたくやも「弾き語り」。すごい違和感あります。ありすぎるので、これに関しては棚に上げます。
たとえば「アコースティック・ライブ」だと、楽器はアコースティックだけどバンド編成、ウッドベースやカホンも加わってライブをやる感じになってしまう。「アンプラグド」だと、もっとバンドっぽい。
というふうに、既存の言葉だと、どれもニュアンスが違う。何かほかにないだろうか、「弾き語り」に代わるちょうどいい言葉。
「弾き歌い」
まずパッと浮かぶのはこれだけど、どうでしょう。ダメでしょう。「ギターを弾きながら歌う」というニュアンスが消えてしまうし、何か「引かれ者の小唄」みたいな感じも出てしまうし。
「アコギ歌い」
ダメ。エレキを使う人もいるし。あと最近はリズムマシンを使ったりする人もいる。何よりこれだと「ひとりもしくはふたり」感が出ない。
「歌とギター」
ダメ。なんだかわからないし、「ギター弾きながら歌います、バンドなしです」感が出ない。というかこれ、サンボマスター山口隆のパート表記のしかたそのまんまじゃないか。正しくは「唄とギター」か。
奥田民生は「ひとり股旅」。田島貴男は「ひとりソウル・ショウ」。向井秀徳は「アコースティック&エレクトリック」。星野 源は「ひとりエッジ」。大木温之は「一人ピーズ」。
というふうに、バンド編成でのライブと並行して、恒常的にひとりでギター1本でライブを行っている人が、そのスタイルに名前を付けることがあるのは、そのへんのことも理由なのではないか。
バンドでのライブではありませんよ、ということはお知らせしなきゃいけないけど、(弾き語り)って付けるだけでは味気ないし、色合いもなんか違う。じゃあ何かそれ用に名前を考えよう、という。
そういえば、THE BACK HORNの山田将司&菅波栄純は「弾き叫び」と称していた。やっぱり「語り」に抵抗があったので、実態に近い「叫び」をセレクトしたんだと思う。
書いてみたらどこかへ着地するかも、と思ったが、結局どこへも行き着かないままなのだった。
でも本当に、誰か何か考えてくれないかなあ、と、いつも思います。