マスクがほしい! そしてかぶりたい!
私、kaminogeという月刊のプロレス雑誌(正確に言うと雑誌コードではなく書籍コードなのでムックなのですが、そんな細かいことはいいですね)で、「兵庫慎司の
プロレスとまったく関係なくはない話」という2ページのコラムを、連載させていただいております。
5月下旬に出た号から始まって、今月つまり8月下旬に出る号で4回目になるのですが、先日、その4回目の原稿を書いて送ったものの、数時間後に「やっぱりあれ、いまいちおもしろくなかったんじゃないか?」とだんだん気になり始め、翌朝起きてもその不安が強まる一方だったので、まったく別ネタで書き直して送りました。
それによって、ボツにしたコラムの行き場がなくなったのと、でもそのまま持っていると、もし次回でネタに困ったりしたら「やっぱこれ使おう」とか思いかねないので、ここにアップしてしまおうと。
おまえは自分でボツにしたものを人に読ませるのか。というのはありますが、タダだし(「読むのが」じゃなくて「書くのが」です)、まあ、いいかと。
というわけで以下、そのボツコラムです。今、ヒマでヒマでしょうがない方、5分か10分時間をドブに捨てたくてしょうがない方、よろしければ。
兵庫慎司の「プロレスとまったく関係なくはない話」
第4回 「マスクがほしい! そしてかぶりたい!」
プロレスのマスクがほしい。
プロレスファンのあなた、そう思われたことはないだろうか。そして、そう思うのに買ったことがない、というジレンマに、身を焼かれた経験はないだろうか。
私はあります。焼かれています。というか、カネのなかった子供の頃は別にしても、自分で働いて食うようになって、自由になるキャッシュをある程度持てるようになった22歳頃から現在までの実に25年間にわたり、その業火に身を焼かれ続けている、と言っても過言ではありません。
定番のパンフはもちろん、Tシャツ、タオル、キャップにキーホルダーにマグカップなど、プロレス会場で売られている、あるいは各団体や業者がネット通販を行っているグッズ、さまざまありますよね。
私もいくつか買ったことがあります。スペル・デルフィンがみちプロにいた頃だから、えっれえ昔の話だが、郡山かどっかまで大会を観に行って、彼が試合後に行っていたサイン会の列に並び、Tシャツを買ったこともあります。
しかし。ことマスクとなると、手が出ないのだ。ほしいのに。ネット普及以降、格段に手に入りやすくなっているのに。かつてはプロレスの会場へ行くか(しかも必ず売っているわけでもなかった)、水道橋あたりの専門店に足を運ばねば買えなかったが、今は検索すればゴロゴロ出てくるのに。
なお僕は、5万円とか10万円する「本人使用済」のレアなやつがほしいタチではない。そのスジのマニアの方は、きっと自宅にマネキンの首を大量に保持していて、新しくマスクを買うとそれにかぶせて並べ、眺め、悦に入ったりうっとりしたり、思わずチンコを甘いじりしたりなさるのだろうが(なさらねえよ)、僕にはそういう趣味はない。書いているうちに、それはそれでうらやましい気もしてきたが、そんな財力はないので、そっち方面はあきらめている。
じゃあなぜほしいのか。かぶりたいのだ。なぜかぶりたいのか。かっこいいからだ。
前述のようなレアなやつじゃなくて、普通に生産されているモデルなら、安価で充分なクオリティのものが手に入る。いや、「本人着用写真付き」であっても、初代ミスティコやエル・ソラールあたりなら12,960円とかで買えるし、そうじゃない「本人使ってない」系の中古なら、初代タイガーマスクが9,720円とか、スーパーストロングマシンが5,940円などという、これはもう激安ヘルスかと思うようなお値段で購入することができるのである。
ほしい。かぶりたい。買える値段だ。じゃあ買えよって話だが、なぜ買わないのかには、シンプルだが厳然とした理由がある。
いつどこでかぶればよいのかが、わからないからだ。
自室でひとりでかぶるだけ、そしてその姿を自撮りしてツイッターのアイコンにしたりするだけでは、さびしすぎる(でもいそうだな、そういう人)。かといって私はプロレスラーではないので、試合でかぶることもできない。じゃあ自分の仕事の時にかぶっていこうか。もっと無理だ。「ただの趣味なんです、気にしないでください。それでは今回のニューアルバムについてなんですが──」。ミュージシャン、真剣に答える気にならないだろう。獣神サンダー・ライガーが鈴木みのると総合の試合をした時のマスク(好きなんです)をかぶったインタヴュアーに、そんなことを問われても。
ならばかぶって近所を歩こうか、日常生活に必要なあれこれをその姿ですませようか。とも考えたが、それでコンビニや、ましてや銀行なんか入っていこうもんなら、一発で通報だ。
こうして考えていくと、たまに見かけるマスクの人が、なぜその時そこでかぶっているのかがわかる。その時そこでしか、かぶれないからだ。プロレス会場はもちろん、たとえばロック・フェスとかでもマスク姿の奴をたまに見かけるが、つまりハレとケでいうところのハレの場なら着用に及ぶことができる、ということなのだろう。でも僕はそういう場で悪目立ちしたくないタチなので、無理。
待てよ。歌舞伎町にタイガーマスクおじさんっていますよね、自転車で新聞を配ってる。僕は新聞は配らないが、じゃあそんな感じで、たとえば商店街の掃除などの善行を行えばいいんだろうか、マスクをかぶって。いや、いやいや、それではちょっと……活字ではっきり書きづらいが、なんか「アレ」なジャンルの人の仲間入りをしてしまう。
では、僕も安保法案に反対するひとりなので、マスクをかぶってデモに参加すれば……ダメだ。「こいつ、顔を隠さないとデモに参加できないんだな」と思われる。
かようにだ。公共の場ではかぶれない。でもひとりでかぶるのは味気ない。じゃあ、同好の士で集まってかぶればいいのか? 今、検索してみて、フェイスブック上に「プロレスマスク博覧会&マスク愛好会」という会が存在しており、そのオフ会も行われていることを知った。とんでもない数のマスクが展示されている会場の写真や、そのあとの飲み会で、居酒屋の座敷でマスク姿でファイティングポーズをとるみなさんの写真がアップされている。……ダメだ。敷居が高すぎる。俺のような素人がのこのこ入っていける場ではない。
自分ひとりではなく、複数の人間がそこにいる。しかもマスクをかぶっていても奇異に思われない関係性にある。そのふたつが揃った場を持たない者には、マスクを装着する機会はない。ここまで考えてみて、そのような結論に辿り着いた。いかんともしがたい。でも、やむをえない。
だから問いたいのだ。このコラムを連載しているkaminoge(ゴングも)を作っている編集プロダクション、有限会社ペールワンズは、なぜ日々マスクをかぶって仕事をしないのか。井上崇宏編集長率いる計3名のプロレス者が、マンションの一室に常勤している、つまり前述のマスクを装着できる条件をふたつとも満たしているじゃないか。
なぜだ。なぜかぶらないのだ。マスクに興味がないのか。いや、でも井上さん、あなた昔プロレスグッズ関係の仕事されてましたよね。なのになぜ。もはや正気を疑うレベルの話だと思う、これは。
以上、kaminoge前号(44号)の初代タイガーマスク佐山サトルの表紙を見つめ、インタヴューを熟読した上で決めた、「よし、次号はこれを書こう」という話でした。
私、初代タイガー、リアルタイム直撃世代なので。
「なので」じゃねえよ。