兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

誰かの間違い、スルーするべし  

 

 2020年12月10日(木)の、ニッポン放送高田文夫ラジオビバリー昼ズ』、清水ミチコとナイツの日を聴いていた時のこと。

 リクエストコーナー『音楽道場破り』の、この日のお題は、水島新司が引退を発表したことを惜しんで、『野球マンガ・野球アニメリクエスト』だった。で、その中で、ちばあきおの『キャプテン』と『プレイボール』が好きだ、という投稿が読まれた。清水ミチコ土屋伸之も知らない様子だが、塙宣之は「おもしろいよ、『キャプテン』」。

 というわけで、塙がふたりに説明を始めたのだが、どうやら彼も、昔読んだかアニメで観たかしたっきりで、すごく詳しいわけではなかったらしい。「いちばん好きなマンガ家は?」と問われれば、即座に「ちばあきお小林まこと!」と答え続けて40年の、僕のような奴からすると、若干記憶があやふやなところがある話しぶりだった。

 たとえば、「キャプテンが替わっていくんだよね。谷口から、イガラシに──」。

 

 思わず「おい!」と言いたくなった。

 丸井を飛ばしとるやないか!

 谷口、丸井、イガラシ、近藤でしょうが、キャプテンの引き継ぎ順は!

 で、「キャプテンが卒業しても、気になって練習を見に来るんだよね」って、いや、それが丸井ですから! 谷口はそんなことしないし。そうか、塙、そのあたりの記憶がごっちゃになってるってことか。

 

 思わずツイッターを開き、そのことを指摘するツイートを、大急ぎで書き始めた。140字に収めるのに苦労しながら、とにかくなるべく猛スピードで書いて、ざっと読み直して、さあツイート、というところで。

 我に返った。

 で、ツイートせずに消した、その140字。

 危なかった。やってしまうところだった。

 

 基本的に、メディア上で誰かが何かを間違って伝えていた時、ツイートとかで誤りを指摘するべきなのは、その間違いによって、具体的な迷惑をこうむる人がいる可能性がある時だけだと、僕は思っている。

 たとえば、ライブの開演時刻、18:30なのに間違えて19:00と言っていたとしたら、それを信じて19:00に行っちゃう人がいるかもしれないから、気がついたら正した方がいいだろう、と思う。

 でも、この『キャプテン』の間違いの場合、誰かが困る可能性、ある? 具体的な迷惑をこうむる人、いる?

 いませんよね。『キャプテン』を知らない人は、聴いて「ふーん、そうなんだ」と思うだけだし、詳しい人は「あ、丸井を飛ばしてら」と思うだけだ。

 「そういうマンガがあるのか」と、興味を惹かれて読んだ人がいたとしても、「あ、谷口とイガラシの間に丸井ってキャプテンがいるのか。塙、そこを飛ばしてしゃべってたのか」と、正解を知るだけである。

 そこで「ふざけんな! 谷口から直でイガラシじゃないなら、買わなかったのに! カネ返せ!」みたいなことになる? なりませんよね。だったらべつにいいですよね、ほっといたって。

 

 そんな、べつにほっといたっていい間違いを、なぜ僕は指摘しようとしたのか。

 塙より俺の方が『キャプテン』に詳しい、だから塙より俺の方が上。という、マウント欲が満たされるからですね。テレビ・ラジオに出まくっている売れっ子芸人で、天下の『M-1グランプリ』の審査員である塙よりも、このポイントにおいてだけは、俺の方が優れている、という。

 

 どうでしょう。しょうもないでしょ、もんのすごく。

 

 自分が人より上であることを見つけたら、即座に喜々としてアピールするのね。ってことは、もう本当に、そういう思いに飢えて飢えてしょうがない日常を送っているのね。

 というか、自分が人より上なのか下なのか、という意識に、日々ガッチガチに囚われながら、暮らしている人なのね。

 という事実を、わざわざ万人にお伝えして、何かいいこと、あるだろうか。

 ない。

 

 たとえば「『キャプテン』特集」とか「ちばあきお特集」で、それなりの尺を割いて語るコーナーなのであれば、まだ、「おい!」と言いたくなるのもわかる。

 丸井を飛ばすなよ。あと、中学野球の話である『キャプテン』の「高校野球編」である『プレイボール』の話も、もっとしろよ。

 さらに言うなら、2017年から「グランドジャンプ」でコージィ城倉が『プレイボール2』の連載をスタートした、大昔に終わったマンガの続きを別の作家が描くという極めて稀なトライアルである、現在も連載は続いていて2020年12月現在で10巻まで単行本が出ている、ということにも触れなさいよ。

 ぐらいのことは言ってもいい、「特集」なら。でも、「好きな野球マンガを挙げてください」というテーマで、いっぱい投稿が来る中に『キャプテン』があっただけなんだから。詳しくなくてあたりまえでしょうよ。というか、その投稿、塙も『キャプテン』を読んでいなかったらスルーされたろうから、読んでいただけまだいいじゃないのよ。

 

 というふうに、ちょっとしたツイートや書き込みや写真なんかをアップした時点で、「こいつ、こういう奴なんだな」「こういう心理状態なんだな」ということが、万人にばれてしまう。

 というのも、SNSの怖いポイントのひとつです。気をつけます。気をつけているつもりでも、こんなふうに、ついやりそうになるくらいだし。

 

 ということを書きながら、自分がちばあきおを大好きで、今も『プレイボール2』をちゃんと追っていることをアピールしている、という時点で、あれね、だいぶ気持ち悪いね、こいつ。

 と、ここまで書いて、読み直して、思いました。だったら素直に最初から『プレイボール2』について書けよ、と思う。

 

 あと、2020年の最後に書くブログがこれって、どうなのよ。とも思う。