兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

めしの問題

  お昼時、会社の休憩室に弁当を食べに行ったら、入社1年目くらいの若い女子が、ふたりで食事していた。

  そのうちのひとりが、千切りキャベツの入ったビニール袋にドレッシングをダバダバと流し入れ、ガシャガシャ振ってから、その袋に箸をつっこんで食べ始めた。

  うわ! なんだその食い方! ロッテリアとかのシャカシャカポテトか!

  と、びっくりしたが、もうひとりの子が「あーそれあたしもやるー」と言ったので、さらにびっくりした。

 「ね。ワイルドだよね」

  って。それ、「キャベツの千切りの袋にドレッシングかけて振り回して、直で食ってやったぜぇー。ワイルドだろぉー?」ってほんとにスギちゃんが言いそうじゃないか。

 

  というのは僕ではなく知人の体験だが、これ、たぶん、世代とかの問題じゃないと思う。

 で、こういうのの、どこまでがセーフでどこからがアウトなのか、どこまでが行儀よくてどこからが行儀悪いのかみたいな境界線って、人によって全然違って、本当に難しいとも思う。

  なので、ちょっとこの件について考えてみたくなった。

 

  たとえば「シャカシャカポテトはセーフなのになんで千切りキャベツはアウトなのか?」と言われると、僕はまったく反論できない。

  それに僕も、インスタントラーメンを丼に移すのが面倒で鍋から直で食ったりする奴なので(人前ではやらないとしても)、その行為と千切りキャベツガシャガシャは「器に移さず直で食う」ということにおいて同じではないか、と問題提起されたら、「そうです」と認めるしかない。

 

  ちょっと話を広げる。昔、景山民夫の小説(確か『トラブル・バスター』シリーズのどれかだと思う)に、無神経な奴を表す形容として「カレーを食い終わって席を立つ時、残したライスにタバコの吸い殻を突き刺していくような奴」という一文があった。

  とても共感したので読んでから30年くらい経つ今でも憶えているわけだが、これも「何がいけないの?」という人は多いだろう。残ったライスはゴミと同じでしょ? あんた燃えるゴミを出す時に生ゴミと吸い殻をいちいち別の袋に分ける? と言われたら、そんなことはしないわけだし。

 

  この手のことを考えると、いつも思い出すのが、自分の家のことだ。

  実家の食事のしかたが、「みんな揃って食卓を囲む」ではなかったのだ。夕飯ができたら、そこにいる奴がなんとなく食う。朝も同じで、起きる時間や出かける時間によってバラバラ。

  大人になって、何年間かのひとり暮らしを経て、人と一緒にごはんを食べる生活があたりまえになってからすっかり忘れていたのだが、あるきっかけで思い出した。

  20代の中盤ぐらいから、東南アジアの島が好きになって、休みのたびにタイだのセブだのに行くようになって、特にセブは知人が住んでいるので何度も足を運んでいるのだが、あちらの島の村の人たちって、基本、家族揃って食わないのです。

  富裕層がどうなのかは知らないが、あんまり豊かじゃない人たちはみんなそう。主食はトウモロコシの粉を炊いたマイスというもので、それを片手に持って海に入っていって、小魚とか貝とかつかまえて、そのまま海にしゃがんで食っている。家にマイスが炊いてあって、腹がへった奴はおのおのそうしている、ということなのだろう。

  子供が8人とか10人とかいるから揃って食うのが物理的に無理とかいう以前に、そもそも「一緒にメシを食う」という発想自体がない。各自腹がへったらなんか食べて空腹を止める、みたいな感じなのかもしれない。

 

  そのことを知った時に、「あ! うちもそうだった!」と思い出したのだった。

  友達の家とかも、けっこうそういう感じだった気がする。僕の育った1970年代~1980年代の広島ではそれが普通だったのか、うちの近所だけだったのか、社会的なランクのどのへんに位置するかで分かれるのか、たまたまうちの親がそういう人たちだったのか、などに関しては、わからないが。

  トータス松本に2万字インタビューをした時に、彼の家は家族全員揃わないと絶対に夕飯が始まらなかったという話をきいて、「ちゃんとした家庭で育ったんだなあ」と思ったものでした。

 

  どこに着地すればよいのかわからないことを書いてしまった。

  そういえば僕の父親は、晩酌の時に、まずピーナツとかアラレとかの乾き物をつまみにして酒を飲む。目の前に料理があってもそうする。で、後半におかずとめしを食ってシメる。

  それを日常的に見ていたので、子供の頃はなんとも思わなかった。大人になり、自分も酒を飲むようになってから、ようやく「なんちゅうひどい飲み方なんだ」ということがわかった。目の前の料理の立場と、それを作った人の立場!

  と、2月12日のフラワーカンパニーズ vs The Birthday @ 広島クラブクアトロを観がてら帰省した時も、思いました。