兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

デヴィッド・ジャガーの件

  放送され始めてもうずいぶん経っているCMなので、今さら何か書くのもちょっとなんなのですが。

  リクルートAirペイのCM。クレジットカードが使えない飲食店や小売店の経営者のみなさん、面倒な手続き不要で、簡単にカードが使えるようにできますよ、それがAirペイです、というやつ。前のシリーズからオダギリジョーが出ているあれです。

  で。2019年3月現在にオンエアされているバージョンは、オダギリジョーがロック・バーの店主で、店じゅうに写真とか貼っていて自分もコスプレしているほど大好きなロック・スター、デヴィッド・ジャガーが、なんと自分の店に飲みに来た。しかし、カードが使えないがために、彼らは出て行き、近所のチェーン店の居酒屋に入ってしまった、というストーリー。ストーリーってほどでもないか。

  まあとにかくそんなような内容で、もう何ヵ月も流れ続けているんだけど、目に入るたびになーんかモヤッとするのだった。で、何度観てもそのモヤッが薄れないので、なんで俺はモヤッとするのか、頭に浮かぶことを書き出してみればちょっとは整理できるんじゃないか、と思ったのだった。

 

  さて。まず、誰もが最初に気になるポイントだろうが、デヴィッド・ジャガーが架空のロック・スターなので、観る側が「すごい!」ってなりにくい。映画やドラマならいいけど、コマーシャルという設定では「そういう大物ロック・スターが存在するのか、このCMの世界では」という前提を、瞬時に共有するのは難しい。そうであることが映像の中で説明はされているんだけど、だからって一緒にパッと気持ちを切り替えられない。

  だったら、本物の海外ミュージシャンを起用すればよかったのに。カネがかかるから無理か。いや、でも、たとえばレディー・ガガとかミック・ジャガーとかはハードルが高すぎるとしても、もうちょっと手の届きそうなランクで誰かいそうじゃない? サントリーBOSSのCMなんて、トミー・リー・ジョーンズが長年出続けてるんだから。

  いや、待てよ。いないのかもしれない、そういうちょうどいい人。たとえばエド・シーランが出ても、マーク・ロンソンでも、あるいはサム・スミスとかアリアナ・グランデだったとしても、家でテレビを観ている人たちの大半は、この外国人が誰なんだかわかりませんよね。

  じゃあ日本人の大物にすればよかったんじゃない? 矢沢永吉とか。桑田佳祐とか。と、書いてみるとわかる。このあたりの国内の超大物ロック・スターって、自分も普通にCMに出ているから、観る方も慣れていて「うわ、すごい人が店に来た!」という気持ちになれないんですね。本当にあなたの店に来たら、そりゃあもう大騒ぎでしょうけど。

じゃあ誰だったらありなの? 音楽じゃなくてもいいや、俳優でもタレントでも。たとえばビートたけし、海外まで名が知られた大物だけど、それこそCMばんばん出てるしなあ。じゃあ誰? そういう、雲上人みたいな大物って……思いつかない。美空ひばりとか、石原裕次郎とか、そういう、本当に今は雲の上の昭和のスターぐらいしか。昭和のスターといえば長嶋茂雄、と一瞬思ったが、セコムのCMに出てたしなあ。

  つまり。このような「ものすごいスターが一般市民の生息エリアに現れてびっくり」という設定のCM自体が成立しにくい時代に、いつの間にかなっているのだなあ。というような結論に至りました。今のところですが。

  そもそも、デヴィッド・ジャガーみたいな、もう見るからにロック・スターですよ、みたいな格好のミュージシャン、今はいないし。

 

  あともうひとつケチつけると、オダギリジョーにとってデヴィッド・ジャガーが、コスプレするぐらい大好きな存在だったら、対面した瞬間の第一声で、「デヴィッド・ジャガー!」って名前を言いませんよね。「うわあああ!」とか「ファンですぅ!」とかになりますよね。

  なのになんで名前を言わせたのか。彼の名前がデヴィッド・ジャガーであることを視聴者に知らせるためですね。というようなディテールにも、モヤッとするのかもしれません。

 

  にしても、そもそもなんでこのような内容のCMを作ろうと思ったんだろう。と考えていて思い出したんだけど、ローリング・ストーンズのいちばん最近の来日の時(2014年)、代官山のロック居酒屋、立道屋に、突然ミック・ジャガーが娘と一緒に飲みに来た、という事件、ありましたよね。店主がそのことをブログに書いて、話題になったやつ。

  このCMを作った人、そのことを知って発想したのかもしれない。違うかもしれないけど。

  立道屋、音楽業界とか映画業界の人がよく行く店で、私も昔、何度か行ったことあったので、びっくりしました。