兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

『宮本から君へ』に懺悔しておきます

  エレファントカシマシの新曲「Easy Go」が、4月6日(金)からテレビ東京系で始まった池松壮亮主演のドラマ『宮本から君へ』の主題歌として書き下ろされたことについて、rockinon. comに短いブログを書きました。

  放送の翌日、4月7日(土)にアップされました。

  こちらです。

https://rockinon.com/news/detail/174965

 

  みなさんに読んでいただけているようで、今(4月9日19時くらい)見たら人気記事の1位になっていた。すごい。さすがエレファントカシマシというか、さすが『宮本から君へ』というか。

 

  で。このブログ、当然、rockinon. comからご依頼をいただいて書いたのですね。

  この原作である新井英樹のマンガ『宮本から君へ』が週刊モーニングに連載されているのを読んでいた頃、イコール、エレファントカシマシの『エレファントカシマシ5』とか『東京の空』とかを聴いていた頃のことについて、主に書いたんだけど、実はもうひとつ書きたいことがあった。が、書いてみたら長すぎたので削った。

  ただし。こうしていっぱい読まれれば読まれるほど、これ、ちゃんとどこかで言っておかないとずるいよなあ、万一あとから誰かにバラされたりしたらイヤだなあ、と気になってきたので、ここに書いておこうと。

 

  何について。『宮本から君へ』に対して、懺悔しておきたい、ということについてです。

  私、連載当時、ディスってました、このマンガのことを。

 

  いや、メディアに批判を書いたりまではしなかったけど、『宮本から君へ』に対して、否定的な気持ちだったのだ。

  憶えてる方も多いと思うが、この作品、連載が始まった頃は、すっごい賛否両論あったのです。

  特に、連載スタートの翌年、1991年あたりのロッキング・オン社界隈では、ほぼ全員が否定派だった。

  それ、僕が入社した頃なんだけど、当時、僕を含め新入社員が一気に6人入るという会社始まって以来の増員があった、それで総勢20人くらいになった株式会社ロッキング・オンには、ほぼすべての少年・青年マンガ雑誌が、常時揃っていた。

  社員みんなマンガ好きで、マンガ雑誌を入れておく本棚の場所が決まっていて、それぞれ買って来て読み終わるとそこに入れる、それを他の人が持って行って読む、というふうに、回し読みする習慣があったのでした。

  それが昂じて、洋楽ロッキング・オンのカルチャーコーナーに、社員が書いたマンガ評や、マンガについて行った対談が、よく載ったりもしていた。

  私も書いた記憶あります。榎本俊二の『ゴールデンラッキー』とかについて。

 

  という頃。誰が見てもあきらかにエレカシ宮本浩次から主人公の名前をいただいた、『宮本から君へ』が始まった。

  それが、不器用で熱くてまっすぐな文具メーカーの新入社員が、ままならぬ仕事やままならぬ恋愛に立ち向かっていく、という内容だったもんで、「何この暑苦しいマンガ」「負けるってわかっててそれでもやるんだ、みたいなヒロイズムすげえイヤ」「こんなもんに我らが宮本の名前を使うんじゃねえよ」みたいな感じで、みんなブーブー言っていたのでした。

 

  僕もそうでした、正直。今になると「自分のいちばんみっともないところを見せられてるみたいでイヤ」「でも俺はここまでみっともなくがんばれないからさらにイヤ」みたいな気持ちで、抵抗があったんだと思う。

  要は、リアルに感じたんだと思うが、にしても刺激が強すぎて……みたいなことだったのではないでしょうか。

  思い出した。僕はそんなことを飲み屋でしゃべっているくらいだったが、当時、ロッキング・オンに、某上司と某先輩による「このマンガは許せん!」みたいな対談が載った。それくらいのものだったわけです。

 

  ただし。ここからは、その上司や先輩たちはどうだったかは知らないが、少なくとも僕に関しては、その後、自分の中で新井英樹の評価を、手のひら返ししたのだった。誰にもなんにも言わずに。

  『宮本から君へ』に関しては、最後までそんな乗り切れない気持ちだったんだけど、その次に週刊ビックコミックスピリッツで始まった『愛しのアイリーン』を読んで「あれ? おもしろくない?」となり、その次の週刊ヤングサンデーの『ザ・ワールド・イズ・マイン』で「うわ、これ傑作じゃん! マンガ史に残るとんでもねえやつじゃん!」と愕然とした。それ以降の『キーチ!!』等も然りで、すばらしい。

  で、困ったことに、『宮本から君へ』とそれ以降で作風がガラッと変わったのかというと、そういうわけではなかったのだ。より過激になったり、より社会的になったりはしたものの、作品のベースにあるものは地続きだった。

  だから『宮本から君へ』はダメだけどそこからあとの作品はすばらしい、みたいな納得のしかたもできなくて、「新井英樹をディスっていた過去」を、自分の中で、なかったことにしていたのでした。

  今回のこのドラマ化がなければ、こうして今さらカミングアウトする必要もなかったわけですが、まあ、『宮本から君へ』リアルタイムで読んでたよ、当時エレカシも聴いてたよ、と、歴史の証人ぶったことを書いておいて、その「ディスってた」方を言わないのは、ずるいかなあと。

 

  以上、すっきりするために書きました。

  そういえば『愛しのアイリーン』も、吉田恵輔監督で映画になることが、ちょっと前に発表されましたよね。楽しみです。最近も『犬猿』おもしろかったし。

 

  あと、新井英樹作品で「いちばん映画化してほしい」「でもきっと無理」なのは、おそらく満場一致で『ザ・ワールド・イズ・マイン』だと思うが、2年前、「これ絶対『ワールド・イズ・マイン』に影響受けてるな」という、超おもしろい映画に出会った。『ディストラクション・ベイビーズ』という、ナンバーガールの曲からタイトルをいただいて、音楽を向井秀徳に依頼した作品だった。

  その監督の真利子哲也が撮っているのが、ドラマ『宮本から君へ』です。何か、いろいろ腑に落ちます。