兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

『この30年の小説、ぜんぶ 読んでしゃべって社会が見えた』について

 ポストを見たら、河出書房新社から、本が届いていた。

 編集者が、あるいは作家本人が、知り合いだったりする場合、こんなふうに新刊を送ってくれることは時々あるが、河出には知り合いはいないし、接点もない。なんだろう、と思いながら開けたら、この新書が入っていた。

 

www.kawade.co.jp

 

 ロッキング・オン社の、季刊の総合誌SIGHT(現在は実質休刊)で、年に一回、「ブック・オブ・ザ・イヤー」という特集を行っていた。エンタメの本は北上次郎大森望が、文芸・評論の本は高橋源一郎斎藤美奈子が、その年に発行された本を選んで語りまくる、という企画である。

 その高橋源一郎×斎藤美奈子の文芸・評論編の、2011年から2014年までの対談4本と、2019年3月号に「すばる」で行われた対談、さらに2021年9月に、語りおろしで行われた対談、計6本が、この本には収録されている。

 

 僕は、そのページの担当編集だったので、そのSIGHTの対談の4本のうちの3本を、構成した。

 おふたりの間に立って、選書していただいて、それぞれに本をお送りして、対談日を決めて、立ち会って、あとでそれをテキストにまとめて──という。

 この本の編集の方からの手紙が入っていて、「兵庫様が構成されました対談も収録しておりますため、見本をお送りさせていただきました。ぜひご一読いただけましたら幸いです」とのことだった。

 

 びっくりしたし、とてもうれしかった。

 そもそも僕は、この本が出ること自体、知らなかった。当然、河出はロッキング・オン社に一報を入れた上で、この本を作ったのだろうし、ロッキング・オン社も「著者のご希望なら、はい、どうぞ」ということなのだったと思う。で、そのことを、当時の担当編集者である僕には、知らせてこなかった。

 あたりまえだ。かなり前に、実質的に休刊になった雑誌の記事をまとめて、よその出版社から本が出る、ということを、とうに会社を辞めている当時の担当者に、わざわざ知らせる義務などない。

 もっと言うと、その本ができあがったら、ロッキング・オン社には送るべきだろうし、実際そうしているだろうが、もう会社にいない当時の担当者にまで送ってやる必要、ないと思う。

 たぶん、著者の高橋源一郎さんか斎藤美奈子さんが「兵庫にも送ってあげて」と言ってくださったのだと思う。会社を辞めてもうすぐ7年、おふたりには一度もお会いしてないというのに。ありがとうございました。恐縮です。あちこちでのご活躍、拝読しております。

 

 ということがうれしかったのと、自分が編集者・ライターとして関わったものが、時間が経ってから、こんなふうによその出版社から書籍化されること自体がめずらしいもんで、何か書いておこうと思ったのでした。

 こんなこと、90年代半ばにロッキング・オン・ジャパンフラワーカンパニーズ鈴木圭介が連載していたコラムが、別の出版社から2008年に出た、『三十代の爆走』という、彼の初の著書に入った時以来なもので。

 その時は、私、まだ会社にいました。で、そういう問い合わせが来て、上司に「あの昔の圭介の連載、単行本に載せたいんですって。あげちゃっていいすか?」「ああ、いいよいいよ」みたいな、イージーな会話を経て「はい、どうぞ」ってことになったのを憶えています。

 

 なお、『この30年の小説、ぜんぶ』、多くの部分を自分が構成したにもかかわらず、今読み直しても、めちゃくちゃおもしろい。

 年に一回、おふたりが選んできた小説・評論を並べて語ってみると、毎年必ず、その年を、その時代を反映したものになっている。そのことに、毎年感嘆していたのを、読みながら思い出しました。