『アリー スター誕生』の公開が終わったので
『アリー スター誕生』、さすがに、そろそろ、だいたい公開終わりましたよね。
というタイミングになるまで、以下のことを書くのは控えていました。なんでかというと、批評とか批判というよりも、限りなくいちゃもんに近いものである、という自覚があるからです。すみません。
まず前提として、とてもとてもいい映画である、ということは言っておきたい。試写で一度観たが、細かいところまでもう一度観たくて(「聴きたくて」もありますね)、公開になってから、映画館に足を運んだほどだ。
レディー・ガガが芝居できるのは予想の範囲内だったが、ブラッドリー・クーパーの「芝居もできるミュージシャン」としか思えない本物っぷりにはびっくりしたし、「初監督作品でこれ!?」っていうことには、もっとびっくりした。あのライブのシーンの撮り方の見事さといい、どう展開するか観る前からわかっている古典的なストーリーをこんなに切実に描くとは!と言いたくなる演出といい、すばらしいところはもう本当に多々ある、ありすぎるくらいなんだけど、どこがどんなふうにすばらしい映画なのかは、すでにあちこちで書かれたり語られたりしているので、くり返しません。
特に、TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の『週刊映画時評ムービーウォッチメン』の宇多丸の批評。いつもだけど、僕などでは到底読み解けないところまで鋭く解説されまくっていて、聴いて唸りました。
番組サイトに書き起こしがアップされています。https://www.tbsradio.jp/330018
さて。そんなすばらしい映画なんだけど、ひとつだけ、どうしても、気持ち的に乗り切れないポイントがあった。
アリー(レディー・ガガ)の才能を見抜いたジャクソン(ブラッドリー・クーパー)が、自分のライブに彼女を招待する。アンコールのタイミングで袖に戻ったジャクソンは、彼女に、ステージに出て歌えと言う。最初は抵抗したアリーだったが、覚悟を決めてステージに出て歌いだし、その歌のすばらしさでオーディエンスから大喝采を浴びる。そこからツアーに帯同し、ジャクソンと共にステージに立つようになっていく──という、アリーがスターへの道を駆け上がって行く最初の一歩のところ。
おい! ってならない? 好きなミュージシャンのライブに行ったら、飛び入りで、知らない女が出てきて歌い始めたら。それがどんなにすばらしい歌であったとしても、「あんたの歌にカネ払ったんじゃねえよ」って思わない? しかもその知らない女、どうやらジャクソンの彼女だな、というのがわかるじゃないですか。
なんだかなあ。毎晩何やってんのよ。彼女連れでツアーしてたってべつにいいけど、ステージの上は別にしてよ、そういうのは。と思うのが、普通のファン心理ではないだろうか。シーナ&ロケッツみたいに、「夫婦です」ってことが前提でファンになるなら別だけど。
そして。ここまで書いたのは、ライブに来るお客としての視点だが、それ以上に彼のスタッフの方が、「やってらんねえ」という気持ちになるのではないか。と、僕は思うのだった。
うちの大将がいきなり新しい女を連れてきて、歌わせるって言って譲らない。リハもゲネもなんにもやってない。ちっちゃいライブハウスならまだしも、スタジアムなのに。音響や照明の段取りはグチャグチャ、進行もぶっ壊れる。
たとえば、彼の友達である人気アーティストが飛び入り、とかなら、お客さんが喜ぶから、いろんな無理を押してでも、やる価値があるのはわかるけど。そうじゃないじゃん。お客からしたらわけわかんねえよ。いくら大将でも! というですね。
僕は普段からライブ寄りの仕事が多い音楽ライターで、イベンターとかライブ制作とか舞監とかローディーとか、つまりステージまわりのスタッフのみなさんの仕事ぶりを見ていつも感銘を受けているので、よけいにそのあたりが気になってしまうのだろう、とも思うが。
でも、青田典子だって、ソデに戻ってきた玉置浩二とチュッチュするくらいで留めてるじゃないですか。玉置浩二も「典子、一緒に歌おう」って「悲しみにさよなら」をデュエットしたりはしないじゃないですか。あんなにファンに対して強気な人でさえ……いや、待てよ。あのふたりのデュエットだったら観たいかも、おもしろそうだから。いかん、思考がとっちらかってきた。
ただ、こういう方向での「大スターの公私混同」に対して、欧米は日本よりも寛容なのかも、という気もする。それこそ、プラスティック・オノ・バンドの頃のジョン・レノンのファンとか。ポール・マッカートニーが新しく組んだバンド(ウィングス)に、カメラマンだった奥さん(リンダね)がメンバーで入っていることを知った時の、ポールのファンとか。
どっちも僕は全然後追いなので、リアルタイムではどんな感じでファンに受け入れられたのか、あるいは受け入れられなかったのかに関しては、リアルにはわかりませんが。
そこにさえ目をつぶれば、すばらしい映画です、『アリー』。
というか、そこぐらいしかありません、気になったところ。