兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

エキストラの話

  僕は立命館大学の出身で、京都で大学時代をすごした。

  当時、京都の大学生の定番バイトのひとつに、「エキストラ」というのがあった。もう30年近く前のことなので、今は事情が違ったりすると思うが。

  東映や松竹の撮影所が、年末年始特番の大型時代劇(放送時間が何時間もあったり、2日に分けて放送されたりするやつ)を撮る時期になると、学生相談所とかに求人を出して、アルバイトを集める。

  朝早く撮影所に集合して、滋賀や三重の山の中なんかまでバスで行って撮影をして、夜8時とか9時頃に戻ってくるので、拘束時間が長い。でも撮るのは1時間とか2時間程度で、延々と待っているだけで基本的にラク。それで8000円とかもらえて、しかも日払い。というのが魅力で、何度かやった。

  というわけで、里見浩太朗扮する西郷隆盛の前で出兵する薩摩軍のひとりになったり、丘の上から松方弘樹徳川家康が見下ろす中、東軍の足軽のひとりとして行進したりした。

  後者は、CM明けにちょっとだけ映っていました。行進する足軽たちを引きの画で撮っている、その中のひとりなので、自分じゃないと絶対わからないレベルでしたが。

 

  で。2014年9月に公開された映画『まほろ駅前狂騒曲』に、実は2秒くらい映っている。

  当時、僕はロッキング・オン社の雑誌、Cutの編集部にいて、この映画の撮影の様子を取材して主演の松田龍平&瑛太に短いインタビューをする、という仕事で、上野の喫茶店での撮影現場におじゃましていた。

  行天(松田龍平)の実の娘を預かることを、多田(瑛太)が行天に打ち明けるシーンの撮影だった。何度もリハを行い、撮影し、カメラ位置を変えてもう一度撮影する──というさまを見学していたのだが、何度か撮ったところで大森立嗣監督が、「うしろの階段、誰か通った方がいいな」と言い出した。その喫茶店、1階と地下に分かれていて、お客は階段を使って店を出入りする、その階段がふたりのうしろに映るアングルだったのだ。

  で、助監督が「はい、えーと……」とあたりを見回し、僕に「あ、あなた、映るとまずいですか?」と訊いてきた。

「いや、別にまずくないですけど」

「じゃあお願いします。ここにいて、僕が肩を叩いたら、歩いて階段を上がってください」

  ということになった。で、指示されるがままに階段を上がったのだが、1階にはこの取材をブッキングしてくれた映画宣伝会社の人がいて、僕を見るや否や、あわてて手でバッテンを出してくる。「このバカ、本番中に階段を上がってきやがった」と思われたのだった。

  上がりきったところで事情を説明したら、「ああ、失礼しました。よくあるんですよね」と言われた。画作りのため、その場にいる人をパパッと使うというの、めずらしいことではないらしい。そのあとその人も、喫茶店の客として、行天&瑛太のうしろの席に座らされていた。

 

  なんでこんなことを書いているのかというと、「映画『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』がエキストラを募集」というニュースを見て、思い出したからなのでした。

  大根仁監督、面識あるので、エキストラの中に俺がいたら笑うかなあ、と、一瞬思ったが、今のこの手のエキストラの常識としてバイト代は出ないのと、拘束時間が16:00~翌朝6:00であることと、「撮影内容:架空ファッション誌のプレスパーティーのシーン」というのを見て、どう考えても俺がいたら変だな、と思って、やめました。