兵庫慎司のブログ

音楽などのライター、兵庫慎司のブログです。

なぜ「袋いりません」は無視されるのか

  5回に4回は無視される。スーパーマーケットのレジで「袋いりません」と言っても。

  そう伝えても、ほぼ確実に、買い物カゴにレジ袋を入れられてしまう。オオゼキ、東急ストア、サミット、ライフ、どの店でもそうだ、僕の場合。

 

  相手が聞き取れていないからではない。己が地獄の滑舌であることは自覚しているので、「袋、いりません。」と、80年代のコピーライターブームのように、文中に句読点を入れるぐらいのニュアンスで、ゆっくりはっきりくっきりと発語するようにしている。そうすると「はい、わかりました」とか「ご協力ありがとうございます」と、返事が返ってくる。にもかかわらず、「2,548円です」という言葉と共に、レジ袋をカゴにねじこまれてしまうのだった。やむなく声を張り気味にして「袋、いりません!」と言い直さざるを得なくなる。

  「袋ご不要の場合はカゴにこれをお入れください」というカードがレジの手前に吊してあるスーパーであっても、まったく油断できない。カゴをレジに置いたら、「ご協力ありがとうございます!」とそのカードを取り上げた店員が、次のアクションでレジ袋をカゴに放り込んでくることだってあるのだから。あまりの手際のよさに「袋いりません」と言い直すタイミングを逃してしまった、この時は。

 

  この件で困るのが、「バカ店員どもめ!」などと、当事者たちを責める気には全然なれない、ということだ。心は無のまま自動的に手が動く、くらいの状態にならないと、あのレジの作業をスピーディーにこなすのは不可能なんだろう、と思うので。

  僕が「異常に『レジ袋いらない』を忘れられる男」であると考えるよりも、ほとんどのお客が日々僕と同じように「レジ袋いらない」を忘れられている、と考えた方が常識的だろう。つまり店員たちは、1日に何度も「いや、袋いりませんて!」とか「袋いらないって言ったよね?」とか客に言われていて、それでも直らない、ということになる。ということは、店員の能力の問題なのではなくて、この制度設定自体に無理がある、と考える方が、正しくはないだろうか。

  ①客に「レジ袋いらない」と言われる②精算作業をする③金額を伝えてカゴにレジ袋をつっこむ、という流れなわけだが、たとえばレジ袋なしがデフォルトの店で、①客に「袋ください」と言われる②「はい」と袋をカゴにつっこむ、という流れならミスりませんよね? だから、客に言われてそれに応えるまでの間に②の精算作業がはさまるからその間に忘れるのだということと、そもそも「客に言われて自分の動作をひとつ足す」のは簡単でも「客に言われて自分の動作をひとつ引く」のは、行動生理学的に難しいのではないか、ということが推測できる。

 

  要は「レジ袋無料だけど環境問題とか気にしないといけないし、できれば『いらない』って言ってください」というファジーなオペレーションにすること自体に問題があるのではないか、という話でした。さっさとみんな、OKストアや西友のように「レジ袋有料」というルールにしてほしい、と切に願う。もしくは無料でも「くれと言われないと出さない」にするか。

 

  書いていて思い出した。飲食店で「領収書ください」と頼んで忘れられることはまずないが、書店だとけっこうある。あれも、「領収書くれと言われる」と「領収書を切る」の間に、おカネを受け取ってレジに持って行ったり本にカバーをかけたり袋に入れたりする作業がはさまるからだと思う。

  あと、書店で「いらっしゃいませ」「カバーいりません」「はい、ありがとうございます、カバーおかけしますか?」と言われたこともあります。不条理コントのようなシュールな気持ちになりました。

 

  もうひとつ思い出した。喫茶ルノアール、コーヒーを頼んで「砂糖とミルクいりません」と言っても絶対に持って来るので、これはもう「客にそう言われても無視すべし」というオペレーションになっているんだな、と判断したのだが、それから3年くらい経ったある日、初めてコーヒーが砂糖とミルクなしで出てきて「え、違ったの?」とびっくりしたことがあります。